金曜から日曜の間にDVDを2本観て、月曜に返せれば理想的なパターンである。
しかし様々な悪条件が重なり、1本目を昨日の日曜に観る事になってしまった。
ところが娘ぶー子がなかなか帰って来ない。
今どこだ、新宿。
まだか、自転車に乗ったところ。
やっと揃ってテレビの前に座った時には、9時半を回っていた。
とにかく観れるところまで観よう。
前日の深酒が効き、酒が進まない。
何となく眠くなってきたが、何としても昨日中に1本はクリアしたかった。
しかし内容が面白かったので、私は睡魔に勝つことができた。
私は。
気がついたらダンナは寝ていた。
どうすんだ、置いてかれてるぞ。
しかし私達母娘は、ダンナを捨てて先に進んでいった。
面白いのだ、話が。
夢中である。
古代ローマの時代の話である。
どこまでがフィクションなのかはわからないが、復讐に燃える剣闘士の物語だ。
いよいよクライマックスが近づき、復讐のチャンスが巡ってくる。
失敗は許されない。
仲間は信用できるのか?
あぁ、観ているこっちがハラハラする。
その時だ。
フッと急にテレビ画面が真っ暗になった。
「あんだ、KYッ!!」
さすがに若いだけぶー子の方が反応が早い。
すぐにテレビのリモコンを手に取るが、画面はのんびりとコマーシャルが流れている。
「・・・ったくよーーッ!!」
怒りの言葉を吐きながら今度はホームシアターの方のリモコンを探し出したが、そこで
「ちょっと!!F1観るんだから!!」と、さっきまで寝ていたダンナが言い放った。
その言い方が、まるでさっきまで観ていたのはF1だったかのような当然のような言い方で、私達は呆気にとられてしまった。
テレビではスタート地点に並ぶF1マシンが、太陽の下で輝いていた。
スポーツ番組特有の、明るい健康的なムードが漂っている。
「俺を自由にしてくれ。5000の兵を連れて、奴を殺す。」あれから1分も経っていない。
私もぶー子も言葉も出ず、長い事、呆然とF1マシンを見ていた。
急に画面が切り替わったのは、タイマーでそのように予約してあったからで、ダンナがF1を観る事はわかっていた。
しかしだよ、こんな一方的で強引で突然に、私はダンナにではなく、タイマーという無情なものに、圧倒的な敗北を感ぜずにはいられなかった。
私が子供の頃はまだビデオなど普及しておらず、チャンネル争いは日常的に起こっていた。
我が家では父のチャンネル権がダントツであり、何度も涙を飲んだ覚えがある。
私が何日も前から楽しみにしていた番組よりも、父がその場の気分で見たいものが優先されるのだ。
その怒りは、今でもありありと思い出せる程である。
しかし、様々な録画機器が普及した今でも、こういうことは起こるのだ。
テレビもDVDも、他の部屋に行けば観れるのだが。
要は思いやりの問題である。
世の中、便利になったが、その事を忘れてはならないと、自分に言い聞かせるのであった。