人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

圧倒的な敗北

金曜から日曜の間にDVDを2本観て、月曜に返せれば理想的なパターンである。

しかし様々な悪条件が重なり、1本目を昨日の日曜に観る事になってしまった。

ところが娘ぶー子がなかなか帰って来ない。

今どこだ、新宿。

まだか、自転車に乗ったところ。

やっと揃ってテレビの前に座った時には、9時半を回っていた。

とにかく観れるところまで観よう。

前日の深酒が効き、酒が進まない。

何となく眠くなってきたが、何としても昨日中に1本はクリアしたかった。

しかし内容が面白かったので、私は睡魔に勝つことができた。

私は。

気がついたらダンナは寝ていた。

どうすんだ、置いてかれてるぞ。

しかし私達母娘は、ダンナを捨てて先に進んでいった。

面白いのだ、話が。

夢中である。

古代ローマの時代の話である。

どこまでがフィクションなのかはわからないが、復讐に燃える剣闘士の物語だ。

いよいよクライマックスが近づき、復讐のチャンスが巡ってくる。

失敗は許されない。

仲間は信用できるのか?

あぁ、観ているこっちがハラハラする。

その時だ。

フッと急にテレビ画面が真っ暗になった。

「あんだ、KYッ!!」

さすがに若いだけぶー子の方が反応が早い。

すぐにテレビのリモコンを手に取るが、画面はのんびりとコマーシャルが流れている。

「・・・ったくよーーッ!!」

怒りの言葉を吐きながら今度はホームシアターの方のリモコンを探し出したが、そこで

「ちょっと!!F1観るんだから!!」と、さっきまで寝ていたダンナが言い放った。

その言い方が、まるでさっきまで観ていたのはF1だったかのような当然のような言い方で、私達は呆気にとられてしまった。

テレビではスタート地点に並ぶF1マシンが、太陽の下で輝いていた。

スポーツ番組特有の、明るい健康的なムードが漂っている。

「俺を自由にしてくれ。5000の兵を連れて、奴を殺す。」あれから1分も経っていない。

私もぶー子も言葉も出ず、長い事、呆然とF1マシンを見ていた。

急に画面が切り替わったのは、タイマーでそのように予約してあったからで、ダンナがF1を観る事はわかっていた。

しかしだよ、こんな一方的で強引で突然に、私はダンナにではなく、タイマーという無情なものに、圧倒的な敗北を感ぜずにはいられなかった。

私が子供の頃はまだビデオなど普及しておらず、チャンネル争いは日常的に起こっていた。

我が家では父のチャンネル権がダントツであり、何度も涙を飲んだ覚えがある。

私が何日も前から楽しみにしていた番組よりも、父がその場の気分で見たいものが優先されるのだ。

その怒りは、今でもありありと思い出せる程である。

しかし、様々な録画機器が普及した今でも、こういうことは起こるのだ。

テレビもDVDも、他の部屋に行けば観れるのだが。

要は思いやりの問題である。

世の中、便利になったが、その事を忘れてはならないと、自分に言い聞かせるのであった。