人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

明日こそ

「ハーーーーーーーーッ。」

もうすぐダンナが帰って来る。やっと晩ご飯の準備に取り掛かったばかりだ。

なんでいつもこうなっちゃうんだろう。今日こそは明日こそはと思っていながら、結局何も終わらなかった。

やるべきことは、山ほどある。

それなのに、日常のルーティンで精一杯なのだ。

一日は長くはない。

しかし、短くもない。充分な時間は与えられているのである。

どうしてこんなに、頑張れないんだろう。気持ちがそれて、前へ進めない。

故意にサボろうなんて、思ったことはないのだ。しかし結果的にサボッているのと同じだ。

何かをやり始めると、止まらなくなる。家事にしても脱線にしてもだ。

家事なら良かろうかと言えば、そんなこともないのである。

例えばちょっと床を吹いた。こぼして汚れていたからである。

しかし、じゃあついでだこの辺バッと拭いちゃおう。この辺ももうちょっと、どうせなら・・・、気が付いたら角の細かいところまでピカピカに。ハッEE:AE482

1時間。

こういうことが、多過ぎるのである。

結局本来やろうと思っていたことは、先延ばしになる。

こんな繰り返しなので、やるべきことは溜まっていく。

借金と同じだ。首が回らなくなると、気持ちは苦しくなっていく。

ハーーーーーーーーーッ。

占いの本を開いた。

質問をしてページを適当に開くと、その答えをくれるという本だ。

本来ならYES・NOで答えられる質問をしなくてはならないルールだが、何も問わずに本を開いた。こんな私に、何か啓示を。

「ありのままの姿でいい」。

は?ありのままがこんなんだから、困っているのだ。

それでも、誰かに肯定されるということは救いになる。

「いいのか・・・。」思わず呟いて、本を閉じた。

翌日は、登山だ。

最近目覚めてハマッているが、実は苦手な分野である。いかんせん、スタミナも根性もない。あるのは意地だけだ。

今回はいきなりの急勾配に、とてつもなく時間が掛かってしまった。

一体何人、私を抜かして先に行ったことだろう。

足を踏み下ろすのが怖い。滑らないか、転ばないか。ひと足ごとに、悪い予感しかしない。

子供の頃を思い出した。

家族でハイキングに行った時、川を渡ろうとするんだが、怖くて進めない。

学校の遠足では、いつも保健の先生と最後尾を歩いていた。

林間学校の時は、班のメンバーが私のリュックを代わりばんこに持ってくれた。

ハーーーーーーーーーッ。

変わってない。

私はこんなんだ。

人より遥かに劣る、できそこないである。

しかし、自然は人間に平等だ。

火照った体に心地良い冷気。

鳥のさえずり。

日の光に反射する沢の煌めき。

神々しいまでの滝の流れ。

モヤモヤしていた霧のようなものが、少しずつ晴れていく。

時に、毎度あまりにスタミナが切れて辛いので、山の歩き方を色々調べたのだ。

それによると、「会話ができる程度の速さで歩く」となっていた。息が切れるのは、ペースが速い証拠らしい。

なので今回は意識して、ゆっくり歩くようにしていたのだ。

それが功を奏したのか、疲れを感じない。このままどこまでも行けてしまいそうな気分だ。

このままどこまで行けてしまいそうな気分。なんて、素晴らしい気分なんだろう。

やがて苦手な、上り階段に差し掛かった。いつも私を心身共にメタクソにするやつだ。

しかし、できる気がしていた。

ゆっくりでいい。

ゆっくりと、息を整えながら上っていく。

カメだな、カメ、と自嘲していたその時。

「それでいい」

と、何かが訴えかけたのである。いや。

自分の内側から溢れ出たのかもしれない。

すごく、納得のいく収まりのいい答えだった。

そうか、このままでいいのか。

私は、このままでいい。「ありのままの姿でいい」。

フフッ、占いめ。

さて、山での啓示を胸に、私はまた日常に戻った。

夕方になると、我に返る。しまった、今日もまた一日が終わってしまう。

登山に使うトレッキングポールについて調べていたら、こんな時間になってしまった。

魔法は切れた。

やっぱりこのままじゃマズイでしょEE:AEB64