娘ぶー子が、「あっちの家」に帰る日だ。
ダンナが、母と3人でご飯でも食べてきたら??と言ってくれたので、ありがたくうどん屋に行ってきたのだ。
ふた回りほど太って帰ってきたぶー子だが、彼女は一皿をペロッと平らげると「まだ食える。」と平然として言った。
窓からはマクドナルドが見える。
以前はハンバーガーなどほとんど食べなかったぶー子だが、目下お気に入りはマックの限定「ハバネロトマト」である。
帰りに買って帰る。
私も、入れて入らないことはなさそうだったが、ダイエット上(もはやダイエットとは言い難く、単なる『注意』である)好ましくないので買ったのはぶー子のひとつだけである。
そのあとは母を買い物に連れて行き、家に戻ったのは3時半頃か。
干した布団を取り込んだら、大きなふとんばさみがバキッと折れて飛んだ。どこかから「あっ!」という声がした。恥ずかしい。慌てて回収。ドッと疲れた。
5時にぶー子を駅まで送っていくことになっていた。
ぶー子が支度をしている間、私は何度も冷蔵庫を開け閉めしていた。
・・・腹が減った。それも猛烈に。
なんなんだあのうどんは、形ばかりでスカスカなのか。異常な腹持ちの悪さである。
しかし冷蔵庫には調理をしなくては食べられないものばかり、インスタントものはラーメンだけで重過ぎる。
ぶー子のハバネロトマトが頭をよぎる。あれこそが、私の欲しているものではないか。
ハンバーガーが食べたい。かなりはっきりと輪郭を持って、私はそれを欲していた。何かで代替できるような欲求ではない。ハンバーガー、ピンポイントである。
ぶー子を送っていく駅の近くにも、マックはある。
いよいよ、広告で入っていたクーポンを出してくる。あまり金をかけたくはない。
もちろんハバネロトマトを食べることができるなら、それ自体はハッピーエンドだが、値段とカロリーがバッドエンドである。
クーポンの中で一番安いハンバーガーは、単品のチキンフィレオ190円であった。
この際、値段、カロリーとも普通の一番安い100円のヤツで十分なのだが、さすがにいい大人があれ一つをドライブスルーで持ち帰るのは恥ずかしい。
決心しかねたまま車に乗り、200円とクーポンをサイドブレーキの下に置いた。
途中でコンビニの横を通った。
時々行くコンビニで、ここなら私も車を停めたことのある安全圏である。
車を走らせながら、私はまた迷う。コンビニのほうが安くて選べるのではないか。
車はぐんぐんと駅に近づいていき、私の頭の中はサンドイッチ、おにぎり、惣菜パンなどが駆け巡る。
ちがう、友よ、そのような調べではない。断固として、ハンバーガーである。
それは100円マックで十分ではあるが、コンビニの作り置きのやたらと丸いハンバーガーではダメなのである。
あのふっくらとしたバンス、肉汁を含んだパティ、ハンバーガーショップらしいソース。
決めた。おやつはマックだ。ハバネロトマトを食べたいのを我慢するチキンフィレオだ。
私には晩ご飯も待っているのだ。夕方に飲み食いすると、ママンに良く怒られたものである。
あぁ、大人って自由でいいな。
しかし大人とは、責任を自分で取ることでもあるのだ。私はまた太ったところで果たしてその責任を取れるだろうか。
そもそもそういった類の責任を取ったことが過去にあっただろうか。
迷ったところで車は時速60キロでマクドナルドに向かっているのである。気がついたらもうドライズスルーのレーンだ。何が「気がついたら」だ、確信犯もいいところである。
ドライブスルーの練習になった、などと言い聞かせてみる。
できたできた、マクドナルド秋津店のドライブスルーはクリアだ。ご褒美はチキンフィレオである。
美味しかった。
家に帰って夢中になって食べた。マヨネーズがたっぷり入っていた。
食べ進むにつれ理性が甦る。「私はもしかしてとんでもない事をしているのではないか」という気持ちになってくる。
しかしもう時速60キロで、完食に向かっているのだ。待っているのは満たされたお腹と大きな後悔である。
晩ご飯が近づいている。またガッツリ食べてしまうのだろうか。
朝ご飯は牛カルビであった。