起こされたらもう、昼であった。
快晴。
予定通り山登りである。高尾山。
前回の失敗を生かし、飲み物のストック2本を背負って出発した。
週末は常に二日酔いなのだ。
渇きにドリンク。
人間の生きる知恵である。
これまでとは違うコースである。4号路。
まぁここもほとんど平坦で楽なコースだったが、どうしてもコースへ入る時と出る時は勾配が急になる。
途端に無口になるぽ子である。
山登りの坂が急になった途端に口数が減るなんて、絵に描いたような根性なしである。
私は、雰囲気を大切にするように終始会話に気を配っているつもりだったが、非常に分かりやすい変化である。
「大丈夫?」と振り向くダンナに返事をするのも辛く、「あーうあううー」と極力口の動きが少ない返事をする。
自分だって何を言ってるのかわからないが、辛いということは伝わるのだ。
コースの終わり際の急勾配で私はすぐに息が切れてハァハァ言い出すが、不思議な事にダンナは「ホイホイ」などと言いながらスイスイ上がっていく。
体力の違いだと言えばそうなのだろうが、酒飲んでゲームやるとすぐに寝てしまうダンナが、ここでこんなに元気である事が不思議でならない。
本命のビヤガーデンは今日も混んでいて、整理券をもらって1時間待ちであった。
とりあえずその辺のベンチに座ったが、座った途端にすぐに眠くなった。
オイコラ、1時間しか歩いてないぞ。
この後、食い放題・飲み放題が控えているのだ。
前日は300gのステーキに肉野菜炒めと狩人麺(カップラーメンだ。モンハン仕立て・笑)、前々日はスタミナ丼にカレーチーズハンバーグである。
一度は目を閉じたぽ子であったが、時間まで短いコースを歩く事にした。
さすがミシュラン3つ星。
登山客は老若男女揃い、国籍も多彩である。
最後に2号路を歩いているときに、コースの分岐点でガイドブックを見ながら佇んでいる外国人男性がいた。
一度はスルーしたが、後に彼は私たちを追い越し(私が遅いので譲ったのだ。その時彼は「アリガト」と短く言った)、その先の分岐点でまたガイドブック見て立ち止まっていた。
何かを迷っているのだ。
つまり、困っている。
このシチュエーションからどちらの道に行こうか悩んでいるのは一目瞭然だったが、何を迷っているのかは聞かなくてはわからない。
「どったの?おっさん」と声を掛けることはできるが、実は私は舌の先を痛めていた。
食事の度に歯に詰まったものを舌でほじくるクセがついているのだが、それで痛めてしまったのだ。
結構痛いので不便しているのだが、さて、この外国人と喋るとなると、カタコトながら英語になる訳だ。
英語には日本語にない音があり、「TH」はその代表的なものである。
「ザ」とか「ディス」とか、その音は非常に多い。
その音は、舌先を上下の前歯で軽く挟んで発声するのである。
まぁ英語力に自信がなかったと言えばそれもそうだが、そんなものはなくても何とでもなるものなのだ、コミュニケーションとは。
「おっさん、どした?」
「オレ、滝の方イキタイヨ」
「それはディスウェイ」
そんな具合に。
ちなみにディスウェイのディがもう「TH」だ。
外国人のおっさんをひとり放置したまま、私たちはビヤガーデンに行った。
前回と同じ夕暮れ時で、夜景が非常にきれいであった。
しかし結婚20年の夫婦は甘い言葉もなく、どこにいけばどのようなものが効率よく皿に乗るかを語るのみであった。
ダンナは今夜、F-1の放送を見るのでそれまでゲームで目を覚ますと言っていたのだが、とっとと寝てしまった。
放送まであと30分。
ゲームはひとりでやることになりそうだ。