人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子57歳。

禁断の薬

エルは確実に弱っていた。

レトルトご飯を食べなくなり、魚を蒸して出した。それも次々食べなくなり、それにつれて少しずつ元気もなくなっていった。

こちらに背を向けて、グッタリと伸びているエル。声掛けに反応も薄い。

最後のあがきに病院から貰ってあった吐き気止めは、1回だけ効果を見せた。

残るは食欲増進剤である。

死に瀕した猫に食欲増進もどうなのか、と吐き気止めを出してもらったはずだったが、結局諦めがつかずに私はこの薬を飲ませてしまったのだ。

先に旅立った2匹も終末期に飲んだ薬である。効果を見せた時期もあったが、最終的には効かなくなる。これが効かなければ、私も覚悟を決める。そんな気持だった。

 

「ちょっと興奮してるから連れて来た・・・・・。」2階の寝室でエルを看ていたダンナが、エルを連れて下りて来たのは、投薬後30分ぐらいか。

興奮?

あのグッタリしていたエルに興奮などと、意味が良く分からない。

ダンナは抱いていたエルを下ろすと、エルは鳴きながら徘徊を始めた。

もうトイレにしか動かなかったのに、こんなに歩けたの!?私達は驚いた。

食欲が増進しているのだろう。落ち着かずに鳴き散らしているので、とりあえすご飯をあげることにした。

用意してあった魚は食べなかったというので、何を出すか、とオロオロしていたら、エルはキッチンにやって来て、大五郎の餌場に飛び乗った。ジャンプ2回分である。

「ええっ!?」思わず驚愕の声が上がる。

そればかりか、大五郎の食べ残しのカリカリを貪るように食べ始めたのだ。「はあああああ!?」驚き、呆れ、うろたえる私達。

アレルギーがあるので大五郎のご飯から引き離し、やはり魚を食べないので、ダメもとでもう食べなくなっていたレトルトを用意する。その間にもエルは、チンピラのように凄みながら徘徊している。

かと思いきや、エルはソファに飛び乗り、テーブルに飛び移り、そこからキッチンカウンターへと飛んだ。「えええええええええ!?」

夢でも見ているようである。さっきまでグッタリ伸びていた子とは思えない。

そしてエルは久しぶりに、以前の餌場であった食洗機の上へと飛び移ったのであった。

 

エルは、食べた。

物凄い食べた。

食べても食べても、食べた。

複雑な思いだ。

エルは、薬の力で食べさせられているのである。

 

もうこれを飲ませてはいけない。本当はあのまま静かに送り出すべきだったのかもしれない。

それでもやがて落ち着きを取り戻し、服薬後6時間経った頃にやっと眠った。

その後はもう興奮するようなことはなくなり、食欲だけが残ってくれた。

食べた分だけ元気になっていく。

また寝ているだけの生活に戻ってしまったが、良く食べ、表情もいい。

深夜に私の顔をチョンチョンと叩いて起こす。「ご飯ちょうだい」。

こんなときが、また戻ってくるなんて。

こうなるとまた、何が正しいのか分からなくなって来る。

私はいつかまた、あの薬を飲ませてしまうのだろうか。

分からない。