エルは確実に弱っていた。
レトルトご飯を食べなくなり、魚を蒸して出した。それも次々食べなくなり、それにつれて少しずつ元気もなくなっていった。
こちらに背を向けて、グッタリと伸びているエル。声掛けに反応も薄い。
最後のあがきに病院から貰ってあった吐き気止めは、1回だけ効果を見せた。
残るは食欲増進剤である。
死に瀕した猫に食欲増進もどうなのか、と吐き気止めを出してもらったはずだったが、結局諦めがつかずに私はこの薬を飲ませてしまったのだ。
先に旅立った2匹も終末期に飲んだ薬である。効果を見せた時期もあったが、最終的には効かなくなる。これが効かなければ、私も覚悟を決める。そんな気持だった。
「ちょっと興奮してるから連れて来た・・・・・。」2階の寝室でエルを看ていたダンナが、エルを連れて下りて来たのは、投薬後30分ぐらいか。
興奮?
あのグッタリしていたエルに興奮などと、意味が良く分からない。
ダンナは抱いていたエルを下ろすと、エルは鳴きながら徘徊を始めた。
もうトイレにしか動かなかったのに、こんなに歩けたの!?私達は驚いた。
食欲が増進しているのだろう。落ち着かずに鳴き散らしているので、とりあえすご飯をあげることにした。
用意してあった魚は食べなかったというので、何を出すか、とオロオロしていたら、エルはキッチンにやって来て、大五郎の餌場に飛び乗った。ジャンプ2回分である。
「ええっ!?」思わず驚愕の声が上がる。
そればかりか、大五郎の食べ残しのカリカリを貪るように食べ始めたのだ。「はあああああ!?」驚き、呆れ、うろたえる私達。
アレルギーがあるので大五郎のご飯から引き離し、やはり魚を食べないので、ダメもとでもう食べなくなっていたレトルトを用意する。その間にもエルは、チンピラのように凄みながら徘徊している。
かと思いきや、エルはソファに飛び乗り、テーブルに飛び移り、そこからキッチンカウンターへと飛んだ。「えええええええええ!?」
夢でも見ているようである。さっきまでグッタリ伸びていた子とは思えない。
そしてエルは久しぶりに、以前の餌場であった食洗機の上へと飛び移ったのであった。
エルは、食べた。
物凄い食べた。
食べても食べても、食べた。
複雑な思いだ。
エルは、薬の力で食べさせられているのである。
もうこれを飲ませてはいけない。本当はあのまま静かに送り出すべきだったのかもしれない。
それでもやがて落ち着きを取り戻し、服薬後6時間経った頃にやっと眠った。
その後はもう興奮するようなことはなくなり、食欲だけが残ってくれた。
食べた分だけ元気になっていく。
また寝ているだけの生活に戻ってしまったが、良く食べ、表情もいい。
深夜に私の顔をチョンチョンと叩いて起こす。「ご飯ちょうだい」。
こんなときが、また戻ってくるなんて。
こうなるとまた、何が正しいのか分からなくなって来る。
私はいつかまた、あの薬を飲ませてしまうのだろうか。
分からない。