もともとエルの声はダミ声で、いわゆる猫の「ニャー」とは程遠い。文字にすれば「ガオー」「ギャオー」という、Gアタックだ。
親馬鹿に言わせてみると、「天は二物を与えず」。こんなに可愛いのに、声までは可愛くして貰えなかったのね、というところである。
そんなエルも歳を取り、人間と同じように耳が遠くなったのか、声のボリュームが上がっている。アタックがガ行なのである、ボリュームが上がれば一段と騒がしく聞こえてくる。年老いた愛猫を「うるさい」などと思いたくない。
まるで赤ん坊が泣いているようなものだ。聞いている方がじっとしていられないような声。駆けつけて、抱き上げて、慰める。泣かないで。いい子。
不思議なもので、トイレを済ますと興奮して大声で泣くことが多い。以前はそんなことはなかった。不快感か、不安か。
私はエルをくるっと丸めて抱き上げる。若い頃は抱っこが嫌いな子であった。今は大人しく抱かれている。
泣き止んで、じっとこちらを見て、喉を鳴らす。甘えん坊になった。
私は体を左右に揺らせ、名前を呼ぶ。
果たしてこんなユラユラが、猫を安心さえることはあるのだろうか。それでもそうしたくなるのは、母性本能なのかもしれない。エルのためではなく、私の条件反射。
さらに私は頬ずりし、音を立ててキスをする。
これは喜ばれないよね(笑)エルのためではなく、私の自己満足だ。
それでもエルは大人しい。
長い時間をかけて、私の愛し方を理解したのだと思いたい。
目が開く前から、一緒に暮らししているのだ。エルは他の愛され方を知らない。
ベタベタうざったいこれが私の愛情表現であることを、時間をかけて学んでいったのかもしれない。
どの子もみんな、歳を取るにつれ甘えん坊になった。
あっちに行くまで、たくさんの愛情を受け取って欲しい。
チュッ。