人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

かすがい

「今日何の日か知ってる?」

「今日?え?5月14日・・・?あ。」

あれから7年。命日も、意識していないと忘れてしまうほどの時が経った。

母が逝ってから、7年。兄と会う日になったのは、偶然である。

 

韓国に行ったのでお土産を渡したい、とのことだったのだ。

旅の話も聞きたい。

「何日いたの?」

「3時間。」

・・・・・・・・?

「3時間?」

「うん。3時間(笑)」

ピアノ弾きである兄の今回の仕事は、クルーズ船での演奏だったのだ。旅行で韓国に行ったのではなく、クルーズ船での仕事で立ち寄っただけ、ということらしい。釜山港。

 

逆に私は、福岡で買ったお土産を渡したのだ。

「何日いたの?」今度は私が答える番だ。「1泊。」「いっぱく??」老猫と暮らしているので、長く家を空けられないのである。

お互いに短い滞在のお土産となった。

 

実は今回兄と会うのは、ちょっと気が重かったのだ。

父とケンカしてからというもの、父のことは全部兄に丸投げした状態になっていた。

具体的には生存確認の電話が主だが、とにかく長電話で忍耐を要するのだ。

父とのケンカの詳細を聞かれるか、もうちょっと我慢しろと言われるか、覚悟をしていた。

 

結局兄から父のことは、何も言わなかった。私が聞いたので簡単に近況を言っただけである。

たくさん音楽の話をした。

たくさん飲んだ。

楽しかった。

良かった。

 

焼酎をメインに飲んだからか、翌日の今日は驚くほどすっきりしていた。

テーブルに、いつも持ち歩いているメモ帳が出ている。それを開くと、「レイ・チャールズ」と書かれていた。

レイ・チャールズ?

記憶がない。

二日酔いは免れても、記憶の方は持っていかれたようだ。変なこと言ってなけれないいが。

次に会えるのはいつになるだろうか。もう父が招集をかけることはないだろうから、おのずと兄と会う機会も減るだろう。

 

子は鎹と言うが、父もまた鎹の役目をしていたことを知った。