「今日何の日か知ってる?」
「今日?え?5月14日・・・?あ。」
あれから7年。命日も、意識していないと忘れてしまうほどの時が経った。
母が逝ってから、7年。兄と会う日になったのは、偶然である。
韓国に行ったのでお土産を渡したい、とのことだったのだ。
旅の話も聞きたい。
「何日いたの?」
「3時間。」
・・・・・・・・?
「3時間?」
「うん。3時間(笑)」
ピアノ弾きである兄の今回の仕事は、クルーズ船での演奏だったのだ。旅行で韓国に行ったのではなく、クルーズ船での仕事で立ち寄っただけ、ということらしい。釜山港。
逆に私は、福岡で買ったお土産を渡したのだ。
「何日いたの?」今度は私が答える番だ。「1泊。」「いっぱく??」老猫と暮らしているので、長く家を空けられないのである。
お互いに短い滞在のお土産となった。
実は今回兄と会うのは、ちょっと気が重かったのだ。
父とケンカしてからというもの、父のことは全部兄に丸投げした状態になっていた。
具体的には生存確認の電話が主だが、とにかく長電話で忍耐を要するのだ。
父とのケンカの詳細を聞かれるか、もうちょっと我慢しろと言われるか、覚悟をしていた。
結局兄から父のことは、何も言わなかった。私が聞いたので簡単に近況を言っただけである。
たくさん音楽の話をした。
たくさん飲んだ。
楽しかった。
良かった。
焼酎をメインに飲んだからか、翌日の今日は驚くほどすっきりしていた。
テーブルに、いつも持ち歩いているメモ帳が出ている。それを開くと、「レイ・チャールズ」と書かれていた。
レイ・チャールズ?
記憶がない。
二日酔いは免れても、記憶の方は持っていかれたようだ。変なこと言ってなけれないいが。
次に会えるのはいつになるだろうか。もう父が招集をかけることはないだろうから、おのずと兄と会う機会も減るだろう。
子は鎹と言うが、父もまた鎹の役目をしていたことを知った。