野菜が高くてウンザリしている。
理由があって高いのだ、仕方がないとしか言いようがないのだが、それでも諦めがつかずに露天の無人販売などに寄ることもある。
私などがノコノコ行く頃にはあらかた売れてしまっていて、残っているものに魅力のあるものは少ない。その日もロッカーはガラガラだったが、見慣れないものが売られているのに気が付いた。くるみだった。
100円。
袋にいっぱい入った生くるみが100円。まず生くるみなど普通お店では売ってないし、加工されたものだと結構いい値段がするものだ。私は迷わず買った。
「くるみ買って来たよ。」ナッツ類が好きなダンナに言った。
「くるみ!?」そのリアクションには、「どうやって?」という意味も含まれていた。
家で開けられるものはないか、100均でくるみ割り器を売っていないかなどと調べてみたが、くるみを割るのは結構難しいようで、「ちゃんとしたくるみ割り器を買う」という結論になった。
100円のくるみのために。まぁひとつ買っておけば、今後も使えるではないか。これを機会にあそこで生くるみをちょいちょい買って来るのもいいだろう。なにしろ100円のくるみだ。
程なくして、くるみ割り器が家に届いた。
テーブルには傷ついたくるみが一つ転がっていた。いかにも「割れなかった」という感じだ。
「なんかね、割りやすくするためには、ひと晩、水に浸けとかなきゃならないみたいだよ。」
だんだん面倒くさくなってきた。そうそう腐るものではないということもあり、私はしばらく放置した。しかしくるみとは、放置して勝手に割れるものでもないし、割りたくなって来るものでもない。これまでの経験上、今放置すると、最終的にはオブジェ化して食べるのが怖いほど月日が過ぎることになりそうだ。
観念してくるみの割り方を調べたのであった。
くるみを水にひと晩からふた晩浸ける。
それを、割れ目が入るまで乾煎りする。
とまぁ手順だけは簡単だった。ただ浸けるのも乾煎りもとても時間がかかる。
しかし粗熱がとれると、俄然割りたくなってきたのだ。ハンターとはこのような心境だろうか。
さあ。
私はくるみを片手に取り、くるみ割り器に入れた。ハンドルに力を込めるとそれは、パキッといって綺麗に二つに割れたのだ。
「・・・・・・・・・。」
割れた。殻は。しかし身も割れて、それぞれ殻に貼り付いたままだ。
ここでまたネットで調べてみたが、ドライバーでほじくり出しているものが多かった。
ドライバーを持ってくるのは面倒だし、ネジを回しまくったものでくるみをほじくりたくない。私はアイスピックで身をほじってみた。
粉々である。
私はくるみを買ったことを、心底後悔した。
くるみ割り器を買って、時間をかけて割って、その結果がこれだ。
しかしゲーマー魂に火が付いた。どうにかしてこいつを綺麗に取り出してやる。
と言っても、他にそう方法はなかった。慣れること。
割る時の力加減。アイスピックを差し込む場所。
全く割れずに取り出すことはできないが、ある程度固まった状態で食べられるようにはなった。
それにしても、儚い量である。くるみを食べたい、という気持ちに応えられるものではない。味付けして食べたいと思っていたが、加工できるような大きさにも満たない。
それでも不思議なもので、ふと手にしてくるみをほじくる。そのちょっとした面倒が、心の余裕に感じられた時。こうしてくるみを食べるのも悪くないな、と思えたのだ。
わざわざ食べようと思うのではなく、無意識に手が伸びて食べていた、という感覚。
ひと手間かけて、ほんの少し手に入るという贅沢。
テーブルにいつもくるみがある風景。
それも悪くないなと思った。
広告で、殻を入れる箱を作ろう。
