つづき。
結局私達は、大ゲンカをして別れたのだった。
前日の電話での言い争いを考えれば、十分に起こりうる結果ではある。それでもあれだけ決意したのにこんなことになり、残念だ。
車で迎えに行った時点では、お互いに前日の電話のことなどなかったように和やかだった。
家に着くと父は、「よっこらしょ。」と重そうにリュックを下ろし、果物をたっぷり入れた袋を差し出した。苺。葡萄。みかん。りんご。そしてなぜかトマト(笑)
逆に私は、ヒートテックの下着を渡す。先日私も誕生日に頂き、その温かさに感動したのだ。しまむらのまがい物とは全然違うぞ!
お茶を入れて出すと雑談が始まりそうな気配になったので、先回りして地図を出した。脱線して長くなるはずだ。とにかく無駄は省いて、目的を果たしたい。
冷静に話ができたのは、最初のうちだけだった。何しろ忍耐を要するので、否が応でもストレスが蓄積されていく。回りくどいだけならまだいい。話が二転三転し、その
根源は私ということになっていく。
とうとう「俺は、やってくれなんて頼んでない。」「立場としては、俺はお前の客になるんだ。」「やるなら仕事としてやってくれないと困る。」という話になり、最終的に私はブチ切れて泣いた。
父が最後に言った言葉は、「勝手な女だ。」であった。
無言で父を送り、家に戻る。まだ怒りで心臓がバクバクしている。予定外に早く終わったので、まだ飲むには早い時間だ。立ち上げたままのパソコンで、我が家の猫達の懐かしい画像などをあとどもなく観る。一時間も経ったら、私の気持ちは落ち着いていた。
私は頑張れただろうか?
ブチ切れた時点で、私は負けている。自分を制御できなかったのだ。
父の言い草は酷いものだったが、案外冷静で、雰囲気を悪くしまいと努力しているのは分かった。
話が二転三転するのも回りくどいのも、歳のせいではないのか。
こんなことは言いたくないが、もう父は、限界だと思う。恐らく頭の中は混沌としていて、自分でもどうしたら良いのか分からなくなっている。
しかし仕事人のプライドが、それを認めない。なので混沌をゴリ押しする結果になっているのだ。恐らく出版社とのやりとりも、困難を極めているだろう。実際、今回の話の始まりは出版社のグチであった。
何もかもが上手く回らない。そんな状態が一番辛いのは、父ではないのか。多分父は、どこかで気づいている。自分の限界に。それに精一杯抗って、まだやれると踏ん張っているのである。
スヤスヤと寝ているエルに、頬ずりする。私は、癒されている。
いずれダンナも仕事から帰り、今日のことなど話したりするだろう。
父は、ひとりだ。
老いて行く自分とまた、向かい合うことになるだろう。
キッチンに残されたフルーツ。
手紙を書くことにした。
電話はその後である。