人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

その死。

朝、ゴミ出しで外へ出ると、目の前の道路でネズミがひっくり返って死んでいた。

人が飼うような小さなネズミではなく、「ドブネズミ」という感じのもの。

その名前とは裏腹の綺麗な白いお腹を上に向け、まるで戦士でもしたようなその様に、尊さのようなものを感じた。

「なんか可哀相なのが道路にいたんだけど。」ダンナに言うと、彼はすでに犬の散歩で目にしていたらしく、「ああ。」と思い出したように言った。

このままにしておけば、家に出入りするたびに目にすることになってしまう。

もしかしたら、車がこれを轢いてしまうかもしれない。そんなことになったら目も当てられない。

ダンナは市役所の番号を出したスマホを私に手渡した。そこにかけると、「専門の部署」に回される。それは、粗大ごみ回収の部署だった。

感じの良い女性が丁寧に対応してくれたが、場所を確認する時に、「それではお宅の家の前の道路で、お亡くなりになっている、ということですね」と言ったので変に神妙な雰囲気になった。

ネズミ様がお亡くなりだが、どうせゴミとして回収されるのだろう。

 

買い物に出た時にはもう、その姿はなくなっていた。その代わりに小さな血だまりが残されていた。

生々しいその血だまりは、生きていたネズミがここで死んでいったことを物語っている。

一体どうしてこんなところで死んだのだろう。

誰かが捨てたのでなければ、ネズミは自力でここまで歩いて来たはずだ。そしてここで、力尽きたということだ。

ペットショップで買われたネズミなら、飼い主に見守られて涙のひとつも流して貰えただろう。

あぁそうか、こんなに引っかかっていたのは、このネズミが哀れに思えたからか。

じゃあどうすれば、私は満足しただろうか。

誰かがあの亡骸を優しく拾い上げ、土に埋め、サヨナラの言葉でもかけてくれたなら。

それを自分でできなかった罪悪感。

その時間は私達人間よりもずっと短いかもしれないが、同じようにこの世に生を受け、同じように血を流し、この世を去っていく。

道路の真ん中に屍を晒し、ゴミとして終わるネズミよ。そしてきっとその魂の行く先は、私達と同じ道だ。今、安らかであれ。

 

役所の女性がその死を「お亡くなり」と言ったことが、実は唯一の救いだったのかもしれない。