「ん、何飲むの、ワイン?ワインあるよ。ボトルで。」
10月のイベントライブで出るバンドの、顔合わせであった。スーさんが仲介役になっていて、ちょっと美味しい居酒屋さんに集まったのである。座るなり「ワイン」とな(笑)まずはビールを注文したが、結局スーさんが払うのである。つまみも頼みにくい。しかし彼は一向に気にもせず、「何でも食べて。刺身あるよ。刺身にする?」と勧めて来るのだった。
「オレ、儲かってるの♪」冗談めかして言うが、多分、本当だ。
スーさんは、不動産屋の社長さんなのである。
しかしおよそ「不動産屋の社長」という感じではなく、永遠の少年、というと綺麗すぎるか(笑)飄々としてつかみどころがなく、はかなげな人だ。
出会いは今はなきライブバー「ポップロック」だったので、もう十数年前になる。
突然バンドに誘われ、それが私のバンド生活の始まりとなったのだが、スーさんは酔うとすぐメンバーになって、とナンパしてくる癖があった。私もそんな一人だったのだろう。私の歌の先生も、飲み屋で知り合って誘われたと言っていた(笑)
コロナ禍で、しばらく会っていなかったのだ。
先日夜の久米川をダンナと歩いていたらバッタリ会い、「じゃあ飲みに行きましょう」と連れて行かれたのが件の「ちょっと美味しい居酒屋さん」であった。
その後、不思議なフィリピンパブへとハシゴしたが、スーさんとはこのように夜の街を渡り歩くのが常である。
ダンナとふたりではまず行かないようなお店に連れて行ってもらえるので、刺激的だ。翌日に振り返って、「昨日・・・笑」となるのも、珍しいことではない。
「昨日はね、西やんなんかとバッタリ会ってね。」
結局私達はボトルワインを飲んでいた。スーさんは、続ける。
「だからまたね、連れてったのみんな。」
私達とバッタリ会った時のように、飲みに連れて行ったみたいである。
一体スーさんは、みんなに幸せを配る天使なのか?
話しているとスーさんに電話がかかってきて、「じゃ、次行きましょう。」ということになった。知り合いのお店から、暇だから来て欲しいという電話だったのである。
こうして今度は小さなスナックに移動した。一応、お姉さんが横に着くお店だ。
「こういうの、久しぶりだね(笑)」ダンナと笑う。最後に行ったのは、やはりスーさん絡みであった。
つまみに大きなぶどうが出た。
じゃあそろそろ帰りましょう、と地下から階段を上がり切ると、今度は「こっち行こうか」とすぐそこの扉を開けた。1階にあるこのお店もまた、いわゆるスナックであった。
中では若いママの友達と思しき若者が誕生日で盛り上がっていて、スパークリングワインのお裾分けなど頂いた。
ここで私の記憶は薄れていく。
2時頃まで飲んでたみたいだ。バンド仲間と飲むことが少なくなって、こういう暴挙も本当に久しぶりだ。朝起きてもまだ酒が抜けず、フワフワと酔っていた。
スーさんはああやって、週末になるとみんなにご馳走して回っているのだろうか。
今まで私達は、ほとんどお金を払ったことがない。払おうにも、受け取ってもらえないのだ。
「何かできないか」とダンナと話したが、スーさんが喜ぶのはお金やモノではないだろう。もうそれは、十分に備わっている。
結局、「どこまでもとことんついて行く」ということぐらいしか思いつかなかった。
それは何も、飲み屋のハシゴに限らない。スーさんの願いは何でも叶えるつもりだ。
そしてこのイベントライブバンドの参加も、そんなひとつなのである。
結局今回、9曲になっちゃったよ(笑)