エルをダンスパーティに誘ったのだ。
オールディーズを踊るパーティで、みんなコスプレさながらお洒落してやって来るのである。私はエルにも、しっかりおめかししてくるように、と言っておいたのだ。
初めてのダンスパーティ。エルはとっても楽しみにしているみたいだ。その日を指折り数えていた。
ところがその日、エルはなかなか現れなかった。
Rock around the clock。
At the hop。
名曲が次々かかり、私は待ちきれずに踊り出す。
何枚もペチコートを重ねて膨らんだフレアスカートが広がる。ポニーテールが大きく揺れる。
すっかり夢中になって忘れていた、エルはどうしただろう?
私は踊りの輪から外れると、小さなエルを探す。
いかんせん、猫だ。この混雑で見つけ出すには困難を極めた。
踏んずけられてなければいいが。ちょっと心配になってきた。
すると、ちょっと様子のおかしい人達を見つける。
彼らは一点を見て、笑いをこらえているようだ。踊ってはいるが、すっかりそっちに気を取られている。
嫌な予感。
彼らの目線の先に、エルはいた。
あろうことか、うちわを腰にねじり鉢巻きというスタイルで、Be-Bop-A-Lulaを踊っていたのである。
その踊りは、ドジョウすくいであった。
周りに笑われていることにも気づかず、必死の形相である。
「エル!!」
いたたまれず呼ぶと、エルは満面の笑みをたたえて走り寄ってきた。
「ママはもう疲れちゃったから、帰ろうか。」抱き上げると「エウも疲れたから帰るね。」と言って大人しく目を閉じた。ニコニコして、とても満足そうな顔。
家に帰るとエルは、うちわと鉢巻を宝箱にしまっていた。
忘れていた。このうちわと鉢巻は、死んでしまった姉さん猫が長年使っていたものだった。
もうボロボロだったので一緒に棺に入れようとしたところ、エルが遠慮がちに「それ欲しい」と言ったのだ。ずっと欲しかったようである。
エルはうちわを丁寧にパンパンとはたき、鉢巻を綺麗にたたんで宝箱にしまった。
今度は盆踊りに連れて行ってあげよう。