カラッと晴れ、乾いた風の気持ちの良い午後であった。私は駅前に向かって自転車をこいでいた。
スイスイとこいでいたが、やがて前方に、年配の男性が現れた。彼も自転車だったが、ゆっくりこいでいるので私が追い付いてしまった形だ。
追い付いた、ということは、私よりスピードが遅いということである。私はこのじさまのスピードに従うことになる。
昼に発売される刺身を買いたかったのだ。人気の刺身なので、早く行かないと売り切れる可能性があった。
ちょっと焦る。
抜かそうにもそのスペースはなく、私はじさまの追走を強いられた。
やがて赤信号が近づいてくる。チャンスだ。私は信号待ちで、じさまの横に並んだ。心持ち前に出て。次のスタートで、先に行けばいい。
青になりグッとペダルを踏みこむと、背後からスッとまた違う自転車に抜かれてしまった。
彼女は信号待ちに引っかからなかったのだろう。走っていたペースそのままでやって来たから、止まっていた私よりも早く渡ることができたのだ。
この女性に道をふさがれた形になったので、出遅れてしまった。逆に避けようにも、じさまがおられる。結局私は女性の背後、じさまの隣を走ることになってしまった。
人のことは言えんが、かなりふくよかな女性である。動きも遅いEE:AEB64じさまと並走している形だ。
どうにもならんので、その後ろを同じペースで走るしかない。
そしてまた、赤信号だ。神はレースを楽しんでいるようである。
私はこの二者より、車輪半分ぐらい前に出て、青信号を待った。もう交差している道路にはみ出している。じさまにゃ分からんだろうが、女性には私の意気込みが伝わっていることだろう。威圧と言ってもいい。
レッドシグナルがブルーへ変わった、各車一斉にスタートEE:AEB30
じさまは論外、女性は譲る素振りを見せなかったが、刺身がかかっているのだ、ぶっちぎった。
抜かしてからも、女性がが降伏するよう私は精一杯こいで先を急いだ。
つまらんことに、気力も労力も使ってしまった。
その見返りの刺身も、売り切れであった。
勝利はどこに。