「これね、あなたにはあまり効かないかもしれないけど、まぁあんまり頑張って飲まなくていいから。ちょっと試してみて。」
断薬のため、病院を代わって数ヶ月。ついに次の段階に入る時が来たのだ。
8年にも渡って漫然と飲んでいたデパスは、今になって「依存性が高い危険な薬」という位置づけになってしまっていた。
実際私も、やめようにもやめられなくて心底困っていたのだ。
身体的依存によってもほとんど効果もなくなっていたが、なきゃないで今度は全く眠れないのである。
これは反跳性不眠という離脱症状のひとつらしく、単なる不眠に加え寝苦しさもあり、結局効かないデパスを飲み続けるしかなかったのだった。
なので、医師の指導のもと断薬できるようにと、病院を変えたのだ。
まずはデパスの依存を断つ。断薬は最終目的である。違う薬への乗りかえ。
これもまた依存性のある薬だが、いっときだ。デパスが完全に抜けるまで、不眠をカバーするものが必要なのである。
それがマイスリーであった。
効かなくなったデパスから、新しい睡眠薬へ。私に夢のような安眠が訪れたのだ。
本当に、夢みたいだ。気が付いたら寝ているのである。
これを手放したくないと思ってしまうが、またここに依存する訳にはいかない。ではそろそろ、と今度は依存性の少ない薬に移行することになったのだ。
今度の薬はデパスやマイスリーとは違うタイプのものになるとのこと。
だから私には効かないかもと言っているのだが、私はとても楽しみにしていた。これが効けば順調に次の段階へと進むことができるのである。
とてもいい先生で、薬の説明を丁寧にしてくれる。この薬の特徴、前の薬との違い。
「副作用としてですね、悪夢を見ることがあるみたいです。」
あ、悪夢!?そんな副作用、初めて聞いたわ。悪夢って、薬で出てくるもんなの??
面白いので後で調べてみたのだが、本当だった。
薬の作用でレム睡眠が多くなり、夢をたくさん見るようになるらしいのだ。
不眠に陥っている人は不安やストレスを抱えている人が多く、悪夢を見る頻度もそのぶん高いということである。
そんなもんなのか。
まずは、週に1回飲むことになった。週の真ん中、水曜日にそれを飲んだのだ。
ハンパじゃない眠気だ。眠気、というか、脱力感。思考力の停止。一切を受け付けたくない。そばで寝ているエルですら、煩わしく感じる。
そして、良く眠れなかった。薬のせいで眠いのに、なかなか眠れないのである。拷問だ。
夢をたくさんみては目覚め、長い夜となった。
悪夢だったのか?どれも思い出せない。ただ、目が覚めるたびに「夢見が悪い」というようなイメージでグッタリした。
2週で2回飲んだが、もう本当に勘弁して欲しい。同じ眠れないなら、何も飲まずに寝た方がよっぽどいい。
ますますマイスリーへの信頼度が高まった。今となってはもはや、恋心を感じているとでも言っていい。夜、眠るときの気持ちったら。
こんな彼と、別れられるのか。
次の診察は、2週間後である。