人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

存在のかけら

「おお、そうだそうだ!」

突然父は思い出したように立ち上がり、隣の部屋に消えた。

母の火葬が済み、兄やいとこと父の家で食事をしていた時のことである。

「これこれ。お前、どう?中国に行った時にお前達に、って買ってあったんだけど。」

父は、ふたつのメッセンジャーバッグ型のショルダーバッグを手にしていた。

母と旅行に行った時に、買ってあったのだと言う。

何度も書いているが、私は両親を疎遠にしていたので、土産などもらうような関係ではなかった。

何年も拒絶していたにも関わらず、なんでこんなものを買ったのだろう。

いつかこうして手渡す日が来ると思っていたのか。

確かにその日は来たが、母はもういない。

「バンドやってるんだろ?こういうのがいいんじゃないかって。」

何でバンドをやってるとメッセンジャーバッグなのか良く分からんが、そう言われたこともあり、今ではリハやライブに良く持って行っている。

使ってみるとそれは楽譜を入れるのにちょうど良く、また肩掛けなので手がふさがらないスグレモノであった。荷物が多いので、重宝している。

このバッグを手にするたびに、母のことを思い出す。

もう私と母を繋ぐものは、何も残っていなかった。

こうなることは何となく分かっていたので、できる限り親に関するものは処分してあったのだ。

そのものを見る度に、思い出すようなことにはなりたくなかった。

もっとハッキリ言うと、自責の念に駆られるんじゃないかと思っていたのだ。

自分の意思で遠ざけたその人の、暖かい思い出が残ること。

それが怖かったのだ。

今、私はバッグに母の存在を感じている。

消えてしまった母のかけらだ。

大切に、大切に、大切に使っているよ。

自責の念はない。

時を止めたままそこにいる母を、感じている。

そこに笑顔の母がいる。