「じゃあお先に。」
私も早く寝たいのはやまやまだが、後片付けがあるので、早出サイクルの間はこうしてダンナが先に寝ることが多い。
その時、珍しく大五郎がやってきた。
そうかよしよし、じゃあちょっと喜び事なぞやってやるか。
爪とぎの上下をひっくり返す。
この爪とぎは両面とげるようになっていて、何度か引っくり返すことを繰り返すが、たいてい下の面の方がダメージが少なくなっている。なので、大五郎は下の面が出て来るととても喜ぶのだ。引っくり返しきる前に、飛び乗って爪をとぎ始める。
「あれ?」
ところがだ。
この時の大五郎は全く関心を示さなかった。
ちょっともう使い込み過ぎてたかなEE:AE5B1
いくら裏面がいいといっても、あまりボロボロでは大五郎のテンションも下がるのかもしれない。
ということは、もうこの爪とぎには魅力がないということだ。新しいのに替えてやろう。
しかしである。
大五郎はこれにも無関心で寄り付きもしなかったのである。
普通なら別に、大したことではない。まぁ気乗りがしなかったか、他の事に気を取られていたか。
しかしこの時は私にとって、「普通」ではなかったのである。
今、私は死神に命を狙われている。
いつ「その時」が来るのかは、死神にしか分からない。
なのでこういったイレギュラーが起こると、私はとてつもなくビビる。これは何かの前触れではないのか。大五郎は、何かを知っている。「かあちゃん、それどころじゃないんだぜEE:AEB30」彼はそれを伝えに来たんじゃないか。
私は一応、ダンナに別れの言葉を告げた。泣けてきた。ダンナは面倒臭そうに最後まで聞かずに逃げた。
いいよな、まだ余命が長い人は。気楽なものである。
そういえば今日、父から電話があったな。
体調が悪かったので一度はスルーしたのだが、2度目は気の毒になってこちらからかけ直したのである。
用事はなかった。ただ「どうしてるか、大丈夫か」と。
インフルか風邪をこじらせたかで、えらい目に合っていると伝えると、父は本当にとても心配していた。
このタイミングで、こんな電話。
もしかしてXデーは、今夜なのか。
ということなので、死神バスターのエルは私と寝たのだ。
しかしエルは一緒に布団に入ることもなく、二つ並べた隣の枕の上で、私に背を向けて寝てしまった。
まぁいい。これがデフォルトなのだ。かえって異変がなく、安心じゃないか。
オヤスミナサイ。
どれぐらい経ったのだろうか。唐突に私は目が覚めた。パッチリと。
ふと隣を見ると、エルがキッチリとお座りして、すぐ横で私を見下ろしていたのでぶったまげた。
呼んでも反応はなく、撫でてみると何事もなかったかのように背を向けて、また枕の上でエルは横になってしまった。
何、今のEE:AEB64私、このあと心臓発作か何かで死ぬのかなEE:AE5B1
怖い。
このまま死ぬのは嫌だ。せめて「そんな感じがした」というアピールぐらいしておきたい。
私はダンナに、「エルがお座りしてこっちを見下ろしてた。怖い。」とだけラインしておいた。
死ぬ、ってどんな感じなんだろう。
私が今ここで急死するとしたら、何とか梗塞みたいなヤツかな。
一瞬かな。
苦しいのかな。
嫌だな。
眠れんEE:AEB64
さて、こうしてブログの更新をしているということは、死ななかったということである。
一体エルも大五郎も、何だったんだ。
やっぱり私は死ぬ予定だったところを、あの時エルが死神退治してくれてまた命拾いした、というのが、一番合理的な答えではなかろうか。
ダンナは変な顔をして笑った。