「お前、短歌やらないか。」
唐突と言えば唐突だったが、必然と言えば必然だったのかもしれない。
実は母は歌壇ではちょっと頑張っちゃった人で、本を出して賞を取ったりしていたようだ。
その影響で父も短歌を始めたらしく、囲碁と並んで没頭している趣味となっていた。
私がこうしてブログなどをやっていることを知り、父はこう切り出したのだった。
「お母さんが入っていた歌会にまずは素性を隠してお前も入り、そこそこ実力がついてからカミングアウトするなんてのは面白くないか?」
そこそこ実力がついてくる前提で話しているのが、いかにも父親らしい。
「俵万智の印税は億単位らしいぞ。」父は私を煽る。
「億・・・。」
単純にそれに引っかかる私。
「そしたら海外に別荘でも買おうかEE:AEB2FモナコとかEE:AE478」
「いいぞいいぞEE:AEB30そこに住むかなEE:AEACD」
面白そうじゃないか。
しかしだ。短歌である。そんなものを作ったことなど、過去に一度、小学校の授業でやらされた時の記憶しかない。(「子供らの前に出て来たばっかりに 蟻の一生踏まれて散った」が優勝したのを覚えている。)
まずルールが分からん、とすぐに嫌気がさしたが、「ルールなんてない。基本五七五七七だけど、もうそんなのは全然気にしなくていい。季語もない。好きにやれ。」と父。
それにしても、「基本五七五七七」という縛りだけでも、結構なハードルだ。
約30文字に、ドラマを込める。
できるのか?
・・・・・・ムラムラEE:AE47Bやってみようじゃないか。
「何か欲しいものある?」
「は?」
「何でも手に入る気がするよ。車?別荘ならまずは国内かね。」
「・・・また印税ですか・・・。」
これまでも、いつか本を出して、いつか曲を書いて、いつか・・・と夢を語って来たのだ。ダンナはまたかと思っただけだろう。しかし今度は違う。
私は早速短歌に手応えを感じていた。
「初期費用に2万円かかるけどね。」母の在籍していた歌会の、年会費である。
「2万EE:AEB2F待ってよ、でもそれで道が拓けるのEE:AEB2Fちゃんと説明してよ。」
何だろなー、ゴネれば本当に出してくれそうな危うさを持った人だよあなたは。
「でも今回は、叶わぬ夢じゃないよ。コネもある。」
私はあっという間に55首の歌を書き上げ、すぐに父へコピーを渡した。
父からのリアクションは早かった。
翌日電話があり、「歌、見たよ。見たんだが・・・。」「う~ん・・・。」「そのなぁ・・・。」
父は言いにくそうにモゴモゴ言っている。
「お前の歌な、まぁこういうのも最近はあるのかもしれないけど、ちょっとこれはお母さんのいた歌会では、まずい。」
「へ・・・。」
「ちょっとなぁ、う~ん、俺にはこういうのは良く分からないんだよ。だから俺にはどうしたらいいのか良く分かんねぇんだよな・・・。」
これは・・・。
遠回しのダメ出しEE:AEB64
短歌も音楽と同じで、決まりはない。
色んなスタイルがあり、人の好みも様々だ。
だから父は否定もしなかったが、ガッカリさせたことは明らかであった。
それきりもう私は、歌を作っていない。父から「歌どうしてる?」という催促もなくなった。
はかない夢であった。
葬送の しんみり夜空の一番星
轟き渡る 父の放屁
ぽ子