えうたん。
つまり、うちの猫のことである。
親馬鹿高じて、「エル」に「ちゃん」がつき、さらに「エウたん」に進化した結果だ。
叱る時ですら、「えう!!ダメ子だね!!」と、まるで気合が入らない。
話し掛ける時は、もちろん「でちゅよね」の赤ちゃん言葉だ。
半端な赤ちゃん言葉ではない。もはやえうたん言葉と言えるくらいの変化と規則がある。
さ行→た行
な行→にゃ行
か行→きゃ行
は行→ぱ行
ま行→みゃ行
ら行→りゃ行
す→ちゅ
ざっくりとこんな感じか。
「えうたん、みゃみゃのてょころにいらっちゃい」ってなもんで。
ソファでご機嫌そうに伸びてるエルを見てダンナが「ちぷくの時よね。」と言った時は、さすがに分からなかった。答えは至福であった(笑)
このように、えうたん言葉には少々の慣れと知識が必要なのである。
そんなえうたんと、私は毎晩のように一緒に寝ている。
寝室へと先導すると、まずはベッドに乗ってベッドサイドのお皿の前を陣取るエル。
水の催促だ。
私は寝る前に薬を飲むので、その時の水を少しその皿に入れてあげる。
ベッドサイドは布団よりも高い位置になっていて、エルは前足をその高い位置に乗せて待っている。
その時たまたま、枕元に置いてあった本がちょうどエルの足の位置に置いてあったので、エルはそれを踏んで待ち構えていた。
イエスキリストのことを書いた本である。
エルも可愛いが、まるでこれでは踏み絵のようで不謹慎ではないか。
私は焦ってエルに注意した。「えう、ダメでしょう、この本は、」
この本は。
神聖な、神の本である。
酔っていたのもあり私はとっさに、「この本はイエス様の本ですよ!」と言ってしまった。
キリストと呼び捨てにするのもどうか、フルネームでも結局呼び捨てには変わりないし、とっさに出たのが「イエス様」であった(笑)
エルは変わらずポカンとして、こちらを見つめていた。
エルにとっては踏んでいるのは、キリスト云々以前に本ですらない。その下の布団でもなく、自分を支える「地」でしかない。
私はエルの下から本を引っ張り出して、反対側の枕元に置いた。
そしていつものようにエルは、静かに水を飲み始めた。
もちろんエル様、反省などしている様子はない。
べちゅにえうがうゃりゅいうゃけじゃにゃいきゃらね・・・。