夜。
ダンナは五線紙を置き、パソコンと向かい合っていた。
むー、とモニターを睨んでいるかと思えば、ハー、と深いため息をつく。
決心したようにちょっと五線紙に何かを書き込んでは、ハハハッなどと泣きそうな顔で笑う。
リハは3日後だ。今回もギリギリの橋である。
ダンナはネットの譜面のキーを変えて、譜面に起こしているのだ。
移調するだけだ、答えが出ているものを書き換えるだけなのだが、よほど面倒なようでずっとこの有様である。
冷蔵庫を漁る。
お菓子の在庫を探る。
ちょっと座ってはウロウロして、まるで集中できていない。
馴染みのある風景だ。
コピーしている時の私とソックリじゃないか。
気持ちは分かる。
だからツボも分かる。
「チョコレートあるよEE:AE471」
「チョコEE:AEB2Fえっ、ああ、いいかもEE:AE482」
普段はチョコなど食べないのに、やはり食いついた。
この現象、私は「脳の疲労が糖分を欲している」などと考えている。
私はその横のテーブルで、やはり譜面を書いていた。
市販のバンド譜を、自分が弾きやすいようなキーボード譜に書き換えていたのである。
これもある意味、答えのあるものの書き換えだ。コピーや音色作りよりもナンボもマシ。
チョコレートが必要な状態ではなく、のんびりやっていた。
ただし、根が集中力のない人間だ。ダンナの様子がおかしくて、すぐにそっちに持っていかれてしまう。
お互いが、お互いに邪魔をしているような状態である。そして、そこに現実逃避をする。
私達は相手を逃げ場にして、目の前の面倒から目を逸らしていた。
「やたら冷蔵庫に行くよね(笑)」
「分かる、分かるよ!」
「無駄に猫いじったりして。」
「耳かきとかその辺にあるものにすぐ気がそれる。」
意気投合。だからどっちも頑張れとも集中しろとも言わないのだ。作業は進まない。
「一小節書いた。」
テーブルのつまみをかじる。
「線を引いたぞ!」
大五郎をいじる。
「転調した!」
転調しただけで休憩だ。
やがて「コマーシャル、コマーシャル・・・。」などと言いながら、足の裏をマッサージ機で掻き始める。
CM多過ぎEE:AEB64
そのうちそのCMも通販並みの長さになり、しまいには「天気予報入ります」。
結局、「あとはもう、繰り返しでしょ。」と言って止めてしまった。
そもそも時間はすでに、12時半を回っていた。
おしまい。
続きは明日、あと1曲。頑張れ(笑)
で、譜面はいいけど、いつ練習するんだろう?
リハは明後日である。