「再考願います。」
これが私の最初の返事であった。
これまでいくつもの曲の依頼があったが(上手いからではない。POPROCKは助け合いのお店なのである。そして、誰しも平等なのだ。)、やる前から「できません」と言ったことはないと思う。
できるだけ断りたくないという大前提があるので、最悪、工夫すればなんとかなるだろうという気持ちで、難しい曲にも挑戦して来たつもりだ。
そのお陰で今の自分がある。
技術的にはお店の最下層であることには変わりないが、自分の中では成長できたと思っている。
しかし今回の第一声は、これだ。
厳しい。
他に誰かやれる人がいるなら、お互いのためにその方がいい。
そう返事をしながらも、諦めきれないでいた。
やれるだけやってみたい。それでもダメなら、でもその時点でプレイヤー変更では、迷惑がかかるかもしれない。
「再考はしません。」
私が悩むまでもなく、弾くことが決定した。
それでも嬉しかった。
下手で弾けないかもしれないけれど、私を選んでくれたのだ。
下手で弾けないかもしれないけれど、頑張ろうと決めた。
ビートルズの「In my life」。
キーボードは間奏部分しか入っていない。なので、他の部分はどうにでもできる。
そういう意味では楽な部類だが、ソロがとてつもなく難しいのである。
どちらかと言ったら、クラシック的な旋律だ。
音数が多く、スピードも速い。左手も良く動く。
バッハの速弾きとでも言う感じだ。
全て単音なのが救いだが、音数とスピードのコンボが非常に厳しいところである。
そもそも原曲では録音したものを早回しにしているとの話で、最後の部分など機械で打ち込んだように聴こえるぐらいだ。これを生で弾く。
これを私がEE:AEB64
とんでもないことになった、とんでもないことになったEE:AE5B1
すぐさま楽譜に起こし、他を差し置いて練習を始める。
実際に弾いてみると、予想したよりもはるかに厄介であった。
全く弾けないEE:AEB64弾ける気すらしないEE:AEB64EE:AEB64
焦るな、まだ一日目だ、努力は必ず報われるはずだ。
まずは、ゆっくり弾けるようになるのを目標にする。
ゆっくり弾けないものが、速く弾けるはずがないのだ。
音数が多いので、指使いを決めておかないと指が足りなくなってしまう。
しかし「弾きやすい指使い」など、弾きやすいと感じるほど弾き込まないと分からないものである。
なのでしばらくは指の出るがまま弾くことにした。
それがまた、道のりを遠くする。この指ダメ、こっちで弾いた方が。それがまた、2、3日すると逆転したりする。やっぱりこっちの方がいいか。
毎日弾いた。
毎日必ず弾いた。
一週間。
何とか「もしかしたら弾けるかも?」ぐらいにはなった。
それでもテンポはゆっくり、つっかえつっかえで子供の発表会にも及ばない。
さらに一週間。
「そろそろ、弾けるかも!?」というところまできた。
娘ぶー子よ、見ていてくれるか、努力は人を裏切らないぞ。
最終的に弾けなかったとしても、In my life程度なら「そろそろ弾けるかも!?」ぐらいにまで私ごときでももっていけるのである。
そこで初めて、原曲に合わせて弾いてみることにした。
驚いたことに、
驚いたことに、
なんと、全然弾けなかったEE:AEB64
一体どうしたというのだ。
緊張か。
周りに合わせることが難しいのか。
そもそもテンポが取れてなかったのか。
すっかり混乱して、弾けていたところまで弾けなくなってしまった。
もういちど今度は、自分だけでテンポも落として弾いてみたが、もうすっかり弾けなくなっていた。一週間分ほど退化した感じだ。
たかだか二週間で天狗になった罰だ。
これは神の取り計らいである。ここで気づいて良かった。このままリハに行っていたら、これがリハになっていたはずである。
正しくテンモニり、周りを聴きながら弾けるようにしなくては。
これからはメトロノームに合わせて練習することにする。
意識が自分だけに向いていてはいけないのだ。
私はみんなの演奏を堪能しつつ、手は勝手に弾いているような。
リハまであと一週間。
本番まで二週間。
・・・やっぱり人選、間違ってなかったですかね・・・。