人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

In my life

「再考願います。」

これが私の最初の返事であった。

これまでいくつもの曲の依頼があったが(上手いからではない。POPROCKは助け合いのお店なのである。そして、誰しも平等なのだ。)、やる前から「できません」と言ったことはないと思う。

できるだけ断りたくないという大前提があるので、最悪、工夫すればなんとかなるだろうという気持ちで、難しい曲にも挑戦して来たつもりだ。

そのお陰で今の自分がある。

技術的にはお店の最下層であることには変わりないが、自分の中では成長できたと思っている。

しかし今回の第一声は、これだ。

厳しい。

他に誰かやれる人がいるなら、お互いのためにその方がいい。

そう返事をしながらも、諦めきれないでいた。

やれるだけやってみたい。それでもダメなら、でもその時点でプレイヤー変更では、迷惑がかかるかもしれない。

「再考はしません。」

私が悩むまでもなく、弾くことが決定した。

それでも嬉しかった。

下手で弾けないかもしれないけれど、私を選んでくれたのだ。

下手で弾けないかもしれないけれど、頑張ろうと決めた。

ビートルズの「In my life」。

キーボードは間奏部分しか入っていない。なので、他の部分はどうにでもできる。

そういう意味では楽な部類だが、ソロがとてつもなく難しいのである。

どちらかと言ったら、クラシック的な旋律だ。

音数が多く、スピードも速い。左手も良く動く。

バッハの速弾きとでも言う感じだ。

全て単音なのが救いだが、音数とスピードのコンボが非常に厳しいところである。

そもそも原曲では録音したものを早回しにしているとの話で、最後の部分など機械で打ち込んだように聴こえるぐらいだ。これを生で弾く。

これを私がEE:AEB64

とんでもないことになった、とんでもないことになったEE:AE5B1

すぐさま楽譜に起こし、他を差し置いて練習を始める。

実際に弾いてみると、予想したよりもはるかに厄介であった。

全く弾けないEE:AEB64弾ける気すらしないEE:AEB64EE:AEB64

焦るな、まだ一日目だ、努力は必ず報われるはずだ。

まずは、ゆっくり弾けるようになるのを目標にする。

ゆっくり弾けないものが、速く弾けるはずがないのだ。

音数が多いので、指使いを決めておかないと指が足りなくなってしまう。

しかし「弾きやすい指使い」など、弾きやすいと感じるほど弾き込まないと分からないものである。

なのでしばらくは指の出るがまま弾くことにした。

それがまた、道のりを遠くする。この指ダメ、こっちで弾いた方が。それがまた、2、3日すると逆転したりする。やっぱりこっちの方がいいか。

毎日弾いた。

毎日必ず弾いた。

一週間。

何とか「もしかしたら弾けるかも?」ぐらいにはなった。

それでもテンポはゆっくり、つっかえつっかえで子供の発表会にも及ばない。

さらに一週間。

「そろそろ、弾けるかも!?」というところまできた。

娘ぶー子よ、見ていてくれるか、努力は人を裏切らないぞ。

最終的に弾けなかったとしても、In my life程度なら「そろそろ弾けるかも!?」ぐらいにまで私ごときでももっていけるのである。

そこで初めて、原曲に合わせて弾いてみることにした。

驚いたことに、

驚いたことに、

なんと、全然弾けなかったEE:AEB64

一体どうしたというのだ。

緊張か。

周りに合わせることが難しいのか。

そもそもテンポが取れてなかったのか。

すっかり混乱して、弾けていたところまで弾けなくなってしまった。

もういちど今度は、自分だけでテンポも落として弾いてみたが、もうすっかり弾けなくなっていた。一週間分ほど退化した感じだ。

たかだか二週間で天狗になった罰だ。

これは神の取り計らいである。ここで気づいて良かった。このままリハに行っていたら、これがリハになっていたはずである。

正しくテンモニり、周りを聴きながら弾けるようにしなくては。

これからはメトロノームに合わせて練習することにする。

意識が自分だけに向いていてはいけないのだ。

私はみんなの演奏を堪能しつつ、手は勝手に弾いているような。

リハまであと一週間。

本番まで二週間。

・・・やっぱり人選、間違ってなかったですかね・・・。