深夜。
私はベッドの上に座り、困り果てていた。
その晩も、良く飲んだ。
一週間の疲れもたまっており、ぐっすり眠れそうである。
枕元では愛猫が待っていた。
普段家にいる時は、全く着るものに無頓着である。
ブカブカのジーンズにトレーナー。いくつかのパターンをひたすら繰り返している。
どうせ外に出る時は、上着を着てしまうのだ。
ミッキーマウスの赤いトレーナーも着るし、パーカーの下からシャツがはみ出していることもある。
しかし、外で飲むとなるとそうはいかない。
私だって、好きでダサい恰好をしているわけではないのだ。家には気に入った服もある。
ここが本番だ。
私は「選んで」、私なりに着飾っていく。
それが今、自分を苦しめていた。
そのとき来ていたのは、首の部分がモコモコのマフラーのように膨らんだカットソーであった。
体にピッタリとフィットした薄手のもので、袖が長く掌が隠れるほどだ。
細身に見せるためか、袖もピッタリと腕にフィットしている。
ストレッチのような加工ではないので、まんま体にそのサイズで張り付いている状態だ。
そしてその下にヒートテックの長袖が一枚、なんのテクもない薄手の長袖を一枚、合計3枚の服を重ね着していたのである。これをどう脱いだらいいものか。
とにかく、脱ぎにくいことは明らかだ。
一番上の一枚が、とてつもなく苦しい。寸分の遊びも伸縮性もなく、うまく脱がないと破れそうだ。
しかしこの1枚を丁寧に脱ごうとすると、その下の2枚がくっついて来ようとする。
それをこまめにはがしながら3枚脱がなくてはならない。
もういっそ、3枚一緒に脱いでしまうか。
腕を交差して一番下に着ている服の裾をつかみ、3枚まとめてめくり上げる。
固いEE:AEB64
1番上のカットソーが、とにかく締め付けもしない代わりに全く伸びもしないのだ。
そのくせ体にピッタリ張り付いているので、そこへ2枚足して一緒に脱ごうとするとビクともしない。
軽い労力ながら、「脱ぐ」という面倒を3回繰り返すか。
とてつもなく負荷のかかる1回で済ますか。
私は逡巡していた。
酔っていたのだ。3回よりも1回を選ぶ。
フン、ガー!!
脇の下で一度引っかかり一度は諦めかけたが、ここが正念場だ。
ガァッと言って服から首が外れ、フッと体が楽になった。まだ両腕に服は残っていたが、ここまできたらあとは消化試合である。
ツルンと脱いで、裏返しのままタンスの上に丸めておいた。
勝ったな・・・。
そんな気持ちになる。
あぁそうだ、次はあれを1枚ずつにバラさないとな・・・。
布団の中でふと思う。
服らの最後の反撃だ。時限爆弾のように、時間差で来るとは。
深夜の小さな戦いであった。