50にもなろう人間がバレンタインでもないが、やはり売り場を見るとちょっとワクワクしてしまうものだ。
チョコレートにも流行りがあるようで、「今はこんなものもあるのか」などと、つい手に取ってしまいたくなる。
あげたい、食べたい、というよりも、作品として持ち帰りたい、そんな衝動に駆られる。
世間のそんなチョコレートフィーバーの中、ダンナが興味を示したのはゴディバであった。
言わずと知れた高級チョコレートだ。
しかし、私もダンナも食べたことがない。
値段を見ると、高いEE:AEB64
余計に気になる、そんな思いで売り場を後にしたのだった。
そこで私は、このゴディバとやらをバレンタインにプレゼントしてやろうと思っていたのだ。
小さいヤツなら買えるんじゃないか??
ところが近所のスーパーには売っていなかった。
ゴディバどころか特設のチョコレート売り場の棚はすでにスカスカで、バレンタイン当日に安いゴディバを買いに来るような輩をあざ笑っているかのようである。
仕方ないので、ケーキ売り場で小さなハートのケーキを買った。
今さらこっ恥ずかしいので、これはエルからのプレゼントという体にしておく。
これが我が家のバレンタインだ。
ときに、冷蔵庫には昨日買った牛肉が入っていた。
100g98円の安い薄切り肉だ。
そうだ、これをスキヤキにしてやろう。ちょっとスペシャル感。
バレンタインである。
バレンタインだぞ。
ダンナよ、あなたにもバレンタインがスキヤキよEE:AEB30
スキヤキの準備をしながら気がついた。
今夜はゴスペルの練習日であった。
もうここまできては、どうにもならない。
煮込まれてクタクタになったスキヤキよりは良かろうと、作る手順を書き残して私は出掛けたのだった。
ゴスペルを歌いながら、想像する。
ダンナは帰る。
玄関にエルからの手紙を置いておいた。
それを持ってリビングに入ると、スキヤキの準備がしてある。
少しは嬉しい気持ちになってくれるだろうか。
そしてそこには、スキヤキの手順を書いた紙が置いてあるのだ。
油をしいて、ネギと肉を炒めてから割り下を入れる。煮立ったら他の具材を入れる。味が濃かったら水を足す。
極めて事務的だ。
そしてダンナは、ひとりでスキヤキを食べるのである。
食べるだけではない。
ひとりでネギと肉を炒め、割り下を入れ、煮立ったら具材を入れ、味が濃かったら水を足すのである。
ひとりスキヤキ。
こんな侘しいものなら、ない方が良かったか。
しかしダンナは結局、残業で12時を回ってから帰って来たのだ。
手つかずのスキヤキセットを見ながら亭主を待つ。侘しいのは私の方だ。
そして1時近い時間までスキヤキを食べ、さすがにケーキは無理だと、今日、朝ご飯の後に食べて行った。
たまに張り切ると、こんなことになる。
もうバレンタインなど、若いもんに任せることにする。