人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

走れメロス / 太宰治

なんで今それEE:AEB2F

というと、在庫が切れたからである。

まぁこれもある意味在庫なのだが、自分で買ったのではない。ダンナが買ってきたのが本棚にあったのだ。

短編集である。

これまで短編も、長編と同じように全て読み終わってから感想を書いていたが、そうすると最初の方どころか、最後に読んだ一編しか思い出せないなんていうことが多いのだ。

なので今回は一編ずつ読み終わるたびに書き留めていったら、長くなってしまったEE:AE5B1

興味ない方はスルーして下さいませEE:AEAD9

・「ダス・ゲマイネ」

甘酒屋で不思議な男・馬場と出会った主人公「さのじろ」。

浮世離れした彼と意気投合し、同じ夢を見るようになる。

この話の魅力は、馬場の魅力ではなかろうか。

登場人物に太宰治本人が出てきてウケた。

・「満願」

エッセイだろうか。とても短い話だ。ほのぼのとしていいが、今も昔もしょうもない類の酔っ払いがいるという方が私には新鮮で面白かった。

・「富嶽百景」

太宰本人が、作家井伏鱒二の滞在する御坂峠を訪れ、富士山を臨みながら暮らす日々を綴る。

これもストーリー性はほとんどない。

それでも、太宰の刹那なまでの純真さが、読み手の胸を突く。

時にコミカルな情景もあり、不思議な魅力がある作品。

・「女生徒」

母親とふたりで暮らす女学生「わたし」が、起きてから眠りにつくまでの一日。

その情景を描きながら、女生徒の内面を描き出している。

思春期独特の迷い、理由のない苛立ち、厭世観。

恐らく太宰自身がこういった感情に非常に敏感だったのだろう。時に切なくあり、ひどく乱暴にあり、清らかであり、と揺れ動くさまが伝わって来る。

若い頃のひねくれてた自分と重なり、読んだのが今で良かったと思う。

・「駈込み訴え」

旦那さま、申し上げます、あの人は酷い、嫌なやつなんです。・・・と唐突に訴えることから始まり、生かしておけぬ、殺して下さいと願い出る。

蓋を開けてみれば、なんだそれは嫉妬ではないか。本当は好きで好きでたまらないのである。

しかし思い通りにならないがために、焦れているのだ。

相手は神の子、イエス・キリスト(笑)

そして嫉妬のあまりにその死を願うのは、裏切り者のユダだ。

果たして聖書にユダの内面が描かれていたかは分からないが、とても人間臭く、イエスにゃ悪いがこれもまた必要悪というか、神話を描くなら必要な登場人物であろうと思わせる。

これが人間なのだ。

生まれ持って罪深く、その罪と戦いながら生きていくのである。

ユダは負けた。

・「走れメロス」

ギリシャ神話と詩人フリードリヒ・フォン・シラーの詩をもとに創作した作品とのことである。なるほど、ちょっと作品の毛色が違い、神話のようでもある。

暴君王ディオニスを批判して捕えられたメロスは、自分の親友を差し出して妹の結婚式のために三日間の猶予を願い出る。

「命が惜しければ、遅れて戻るがいい。」ディオニスは、メロスを揺さぶる。きっとメロスは逃げる。自分の命と引き換えに親友を見殺しにするだろうと。

一方メロスは何としてでも戻り、自分が友への忠誠を尽くすことをこの王へ知らしめてやろうと思ったのだ。

ところが想像を超える困難な道のりに、メロスは弱気になっていく・・・。

・「東京八景」

壮絶なエッセイだ。

自堕落に生き、酒と薬に溺れ、借金にまみれ、自殺未遂を繰り返す底辺の頃を当時の苦悩と共に描いている。

不思議なことに私は、太宰にそこはかとない純粋さを感ぜずにいられない。

彼は言い訳をしない。とことん自分を責める。しかし立ち直る気もない。その狭間でもがいていた。死にたくもなる。

最後に胸を張って晴れ晴れと義弟を見送る姿は、感動的であった。

・「帰去来」

これも先の「東京八景」のようなエッセイだ。

自堕落に生きて人様に相当迷惑をかけてきたようだが、中でも世話になった二方の話である。

申し訳ない、何とかしなくてはと思いつつ、結局何もできないばかりかますます堕ちていく自分。

自分とシンクロしたが、さすがにここまで酷くない(笑)

それを考えると、太宰の生きづらさは相当なものだったと思われる。

「相も変わらず、のほほん顔」という言葉の裏には、自嘲が含まれているのではないだろうか。

彼はちゃんと自分で背負っているのである。罪悪感を。

・「故郷」

「東京八景」から一年後、太宰のもとに、母危篤との知らせが入った。

実家には顔見せできない立場でありながらも暖かく迎えられた一年前であったが、長兄文治とは会わぬままになっていた。

ノコノコと家族を連れて故郷へ向かう太宰。

母親との永遠の別れに涙する資格もない、と歯を食いしばって耐えつつ、他人行儀の長兄にも何も求めまいと自らの心の在り方にのみ注力する。

自分は他のどの兄弟とも違い、無能で、貧乏で、自堕落な人間なのだ。

そんな思いが染みついているのに、自然と次兄に寄り添う太宰。気がついたらそこには、兄弟が揃っていた。

家族の絆の尊さを描きながらも、どこまでも自虐的な太宰の思考が切ない。

「ついいつも、最悪を想定してしまう」という言葉に、深く共感してしまった(笑)

自分がこれまで持っていた劣等感、マイナス思考に刹那的行動など、重なる部分が多く、複雑な気持ちになった。

それなのに小説の語り口はどこか飄々として、時にユーモラスであったりする。

長い時間を経ても、魅力のある作品だ。

ぽ子のオススメ度 ★★★★☆

「走れメロス / 太宰治」

新潮文庫