ううっ、また鳴いている、困ったものだ。
エルとラッキーの不仲はますます深刻な状態になり、ラッキーはエルを排除しようとする、エルはその前に逃げ出そうとする、そんな状態になっていた。
みんなで過ごしていたリビングは、エルにとって安らげる場所ではなくなってしまった。
エルを感知したラッキーは、唸りながら猛然と飛び掛っていく。
エルは一目散に逃げる。
こんな状態なのでエルは、いつもリビングのドアの前でそれが開くのを待っているのだった。
そして、隙あらば脱走する。
もうあまりにしょっちゅうのことなので、面倒になってしまい、追うことはしなくなった。
行き先は2階の寝室だ。
外敵のいないパラダイスなのである。
エルはそこを目指す。
目指せやEE:AEB67
そこがいいならそこで大人しくしていてくれ。
ところがエルは、寂しがりやなのである。しばらくすると、低い遠吠えのような声が聞こえてくる。
アオォォォ~~~ン、アオォォォ~~~ン、というその猫らしからぬ鳴き声は悲しげに聞こえ、聞いている方も落ち着かない気持ちになる。
不思議な事に、この遠吠えをする時には必ず何かを口にくわえている。
多くはポケットティッシュやメモなどの小さな紙類やビニール製品である。
鳴き声にいたたまれなくなり駆け寄ると、エルはそれを誇らしげに見せる。
この行為の意味するところをずっと考えているが、エルは褒められたい、寂しい時に獲物を捕まえれば誰かが褒めに来てくれるんじゃないか、と思っているような気がしている。
外出先から戻り、エルが噛み散らかした紙類が転がっているのを見ると、胸が痛む親バカぽ子であった。
鳴かれるのも切ないし、ポケットティッシュが次々駄目になってしまうので、紙類は見えないところに隠すようにした。
それなのにだ。
なぜかエルは次々と「獲物」を探し出しては鳴く。
一体どこから獲物は湧いてくるのか、私は不思議で仕方がなかった。
ある時など、飲み屋のクーポン券が惨殺されていた。私も忘れていたようなクーポンだ。
恐るべし紙ハンター。
謎は深まるばかりであった。
ある晩、いつものように寝支度をして寝室に上がった時のことだ。
時間も遅かったし、先に行ったエルももう寝ているだろうと静かに上がっていたのだ。
なのでエルは私の気配に気づかなかったのだろう。私はついに現場を押さえたのだ。
エル、夢中になって私のバッグに頭突っ込んでたよEE:AEB64
バッグは、ベッドの横にいくつか掛けっぱなしになっている。ほとんど口の閉まらないタイプのものだ。
そこへベッドから立って頭を突っ込んでいたのである。
なるほど、私はだらしがないので、バッグにはレシートやらメモやらパンフレットやら入れっぱなし、紙類には事欠かないだろう。
私を呼ぶためにここに頭を突っ込んで、ウウッ、いじらしい、1冊本ができそうだわ。
そしてまた、エルは鳴く。
親バカの試練は続く。