長く辛い週末であった。
出掛けたり美味しいものを食べに行ったりそれなりに楽しく過ごしたはずなのだが、そういうことが思い出されてこないのである。まるで印象に残っていない。
断じて私はアル中ではない。
依存症となると定義や線引きが分からないので断ずるまではできないが、病的な依存ではないと言いたい。現に平日の酒は、飲まなくても何ら支障はない。飲めたら嬉しいが。支障が出る。
ところが「週末に飲めない」というだけでこんなに精神的に追い詰められるとは、予想だにしなかった。
それだけ「週末」と「酒」の結びつきは大きかったのである。
あるはずのものがない。
これが、「だからしたくない」に繋がってしまう。
ただ喋ったり食べたりテレビを見たり音楽を聴いたり、普段普通にやっていることですら輝きを失くし、何もできなくなってしまうのである。
金曜日の夜、残業で遅くなったダンナを車で迎えに行き、その足で晩御飯を食べに行った。
いつもの金曜なら、どんなに遅くとも飲みに行っている時間である。
しかし私にはもう飲む予定はないし、だから一緒に飲みに出ることもないし、だったら車を出すからどこかで「食事」をしようということになったのだ。
酒を飲みたいダンナと酒を飲めない私の両方が楽しめそうな店、というので選ばれたのは、お好み焼き屋さんであった。
そこでダンナは瓶ビール飲み、私はノンアルコールビールを飲んだ。
静かであった。
全く会話が弾まない。
始めのうちこそ「明日は何しようか」だとか、「これ美味しいね」などと真っ当な会話らしきものが交わされていたが、「会話が弾まない」ということを認めてしまうともう会話の努力も空しくなってしまう。
だって飲んでないから。
そう思うだけで、何の努力も空しくなってしまうのである。
「なんかつまんないね、ハハハ。」と言って、食べるものだけ食べて帰ってきた。
コタツに入ったら猛烈に眠くなったので、サッサと寝てしまった。
これが金曜日。
飲まずに早く寝たので、気持ち良く起きる事ができた。
ならば有意義に過ごそうと、まずは駅前のレストランで食事をし、お墓参りに行って散歩がてら歩き、新宿でブラブラと過ごした。
今度はこの辺から空気がおかしくなってくる。そう、本来なら「そろそろ飲もうか。」となるところだからである。
しかしそれができないのである。他にやることを思いつかない。
瞬く間に全てが輝きを失ってくる。
何をやってもつまらない。
何もやりたくない。
だって飲めないから。
飲めないのにこんなところにいても仕方がないのである。
地元に帰り、ご飯でホルモン焼きを食べて家に戻る。
まだ寝る時間には程遠かったが、やることがないのでとっとと布団に入ってしまった。
これが土曜日。
あり得ない時間に飲まずに寝たので、午前7時というあり得ない時間に目が覚めたのだ。
また忌々しくなる前に有意義に過ごそう!とエンジンをかける。
喫茶店に行ってモーニングを食べ、家に戻ったらDVDを観た。
車でIKEAに行くことを思いつき、そのついでにそっちの方面でランチを食べる。
IKEAを出る頃にはクッタクタだ。もうまっすぐ家に帰ろう。
スーパーで半額になっていた寿司を買う。酒はなしだ。酒のない寿司である。寿司だが、酒なしである。
テレビを見ながらそれを食べると、もうやることがなくなってしまった。
だってお酒がないから。
酒さえあれば、何をやっても楽しいのである。
特別なものなど、何もいらない。
酒さえあれば、会話も、テレビも、音楽も、食事も、ありふれたごく普通のことですら輝くのである。
「つまらん。」
私は遠慮なく繰り返した。本当につまらん。
とっとと寝てしまおうと思ったが、それですらつまらん。
仕方なく私は、ゲームを始めた。「仕方なくゲーム」である。
普段私は飲みながらゲームはしないが、それですら「つまらん」に転落してしまったのである。
しかしさすがに定価9240円(を950円で買った)の娯楽である。ゲームときたら私を楽しませようと必死だ。
そして私はまんまとそれにかかった。私は飲兵衛だが、ゲーマーとしての部分の方が大きかったのだろうか。それとも酒よりもゲームの方が、人を魅了する魔力が強いのか。
いずれにしろ、止め時が分からなくなるほど夢中になってしまったので、寝る時間が来て終わりにしたのだ。
終わった。これで寝れる。明日になるのだ。
先ほど夢中になっていたゲームも、思い返してみればもうつまらない思い出になっている。
つまらん週末であった。
こんな週末が少なくともあと1回、控えている。
人生で一番長い2週間になりそうだ。