さとちゃんとランチしたのだ。
2年前に退職した会社の友人だ。
辞めてからも時々会っていたが、久しぶりである。
結婚した彼女は妊娠し、部署を移動した人が何人か、歳の近い新しい仲間が増えた・・・。
時は流れていた。
一方私がさとちゃんに伝えられえることは「今FF12やってるんだ。」と、それぐらいである。
専業主婦になるということは、時が止まることなのだろうか。
そのまま一緒にスーパーに買い物に行く。
さとちゃんが手に取った野菜の見るところは、値段ではなく産地だ。「高い」とも「安い」とも言わずにポンポンかごに放り込んでいく。ダブルインカムの威力。
一方私は100g38円の鶏胸肉を買い、その先のスーパーまで行って1缶88円のひよこ豆を買った。
さとちゃんは「ひ、ひよこ!?」とだけ言った。
私も仕事をしていた時分は自分の口座を持ち、食費はそこから出していたのでケチなりにたまにはちょっとした贅沢をしたものだ。
ところがだ。昨日のことだが、レジに並んでいる間に財布を見たらスッカラカンであった。
なんと、何も買えないじゃないか。
私はすでに、半額に値下げされた商品ばかりを何点かカゴに入れてあった。
家にお金を取りに帰るということは、一度これらを手放さなくてはならないということである。
惜しい。
牛肉の塩麹漬け、ローストポーク、生餃子、浅羽カレイ。
家に帰っている間になくなってしまったら、悔やんでも悔やみきれないような面々である。
もう一度、財布を開いてみる。
そうだッ!!仕事を辞めはしたが、放置している口座は残っているじゃないか。
数千円ぐらい、残高があるかもしれない。
カードを探しながら、店内のATMへ急ぐ。
カードないしEE:AEB64
しかし、銀行のカードはなかったが、郵便局のカードの方が入っていたのだ。
しめた、忘れ果てていた存在だったが、こっちの方が残高が多い可能性があるぞ。
早速カードをATMに突っ込んでみるが、はて、暗証番号・・・。
どれもハズれたEE:AEB64
私の友人が勘で入力しても当たりそうなぐらい、分かりやすい番号だったはずである。
しかし全滅だ。
モンハンじゃないが、チャンスは3回までなのである。
ゲームオーバーだ。
現金が手に入らなかっただけでなく、カードも使えなくなってしまった。
もう観念して家に戻るしかなかったので、恥を忍んでカゴはサービスカウンターで預かってもらった。
私の獲物である。誰にも渡したくなどない。
「どれぐらいで戻られますか?」と聞かれ、なぜか誇らしく「5分もあれば大丈夫です。」と答える私。
心配するな、すぐ戻る。
走って自転車置き場に向かい、自転車にまたがった。
本当に家はすぐ近くなのだ、すぐに着いた。
よっしゃ、5分と言ったが3分で着いて驚かせてやろう。伝説になるかも。
自転車を降りると、グッ・・・、えっ・・・?
自転車から離れられない。
なぜかと言うと、上着の裾からぶら下がっていた紐が、タイヤに絡まっているからですEE:AEB64
えっー!?ちょっと待ってよ、真っ暗で良く見えない、これはどっちに引っ張ればいいのか??
焦るほどに乱暴になっていくが、解こうにも見えないのだ、闇雲に引っ張ることになる。
事態はますます悪化した。
ヤバい、3分どころか、宣言した5分も危ういぞ。それどころか、このままここで朽ち果ててしまうかもしれない。
泣きたくなった。
最悪の場合、上着はここに脱いで自転車にくっつけておき、歩いて行くしかないだろう。
その前にできることがひとつだけあった。娘ぶー子が家にいるはずである。
ただ、寝ている。
それは「起きない」か「もの凄く機嫌が悪い」かを意味する。
携帯から電話をしてみたが、結果は後者であった。
「実は・・・、もの凄く困ったことになってまして・・・、ですね。」
下手に下手に・・・、しかしある程度の刺激がないと、また寝てしまうからその辺のバランスが難しい。
「助けてもらいたいなぁと・・・。」深刻さを漂わせ、ただごとではないように思わせる。
「・・・あ?」あぁ、不機嫌そうなお返事EE:AEB64
その時、適当に引っ張っていた紐が、突然自転車からスルリと抜けた。
と、取れたEE:AEAAB
「・・・と思ったのですが、解決しましたので、ではサヨナラEE:AE5BE」
家に駆け込んでまずやったことは、現金の補充ではなく、上着の紐を短く縛ることだった。
ホント、冷や汗かいたよEE:AE5B1
家の前でまだ良かったが、出先であんなんなっちゃったらどうしましょうですわ。
かくして半額の食材を手に入れ、お腹いっぱいの肉を食べることができた。
しかし郵便局のカード、どないしましょ。