人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

誘眠の儀式

「裏切られる」ということはつらい。

さりとて「信じられない」というのもつらい。

私は「信じる」方を選んだのである。

疑いながら生きることもまた、つらいのである。

しかし、信じたものに裏切られるということは、本当にこたえる。

怒りよりも、悲しみよりも、「なぜ」、という戸惑い。

それでも私は信じていきたいと思うのだ。

他に選択の余地がないのである。

深夜12時30分、私はまだゲームのコントローラーを握っていた。

11時半には布団に入ると決めてはいたのだが、現在ゲームでやっていることといえばただのレベル上げ作業、やめようと思えばいつでもやめられるのである。

かつ、前日は良く眠れなかったので、布団に入ってからはすぐに寝れるだろうと踏んでいたのだ。

1時になる前にベッドに入り、薬を飲んだら恒例の誘眠読書会だ。

枕元では大五郎が丸くなって寝る準備。

ちょうどエアコンの風が当たって暖かいのだろう、布団に入る気配はなかった。

枕の上にクッションを立て、背中を軽く起こして本を読み始める。

今読んでいる本は、読みやすい娯楽ものである。

それまで読んでいた本が長くて堅い本だったので、マンガのようにスラスラ読めてしまう。

昨夜は途中からだったが、あっという間に読み切ってしまったのだ。

ん・・・、どうしよう、まだそれほど眠くもないが。

いつもなら、意識がちょいちょい飛び始めるぐらいまでは読む。そう長くもかからない。薬の力だ。

このままでは「誘眠の儀式」が遂行できないではないか。

そうだ、こんな事もあろうかと、2、3日前から次に読む本をベッドに持ってきてあったじゃないか。

確か枕の右側・・・、うっEE:AE4E6黒いかたまり。

本のあるべきところには、大五郎が丸くなって寝ていた。ちょうど真上だ。大五郎の下からチラリともはみ出していない。

なにくそ、ここはグータラ主婦のベッドである。枕元にはまだまだ出しっぱなしの本がある。

一度、いや正確には何度も読んだ本であることは問題ではないのだが、その本は全てゲームの攻略本であった。

それも、「役に立つ方」はリビングのテレビのところに置いてあるので、ここにあるのは単なる娯楽、オタクチックな楽しみのためにあるものばかりであった。何度も読めるものではない。

もう一度大五郎の方に寝たまま向き直り、背中を撫でてみる。

良く寝ている。

まぁいいか。全く眠くない訳じゃないし、私も寝てしまおう。

大丈夫、薬飲んでるから。

大丈夫。

私の飲んでいる薬は睡眠薬の類ではなく、入眠時の緊張を和らげるための軽い安定剤である。

実際その時は特に構える感じもなく、このまま何となくいつものように眠るのだろうと思っていたのだった。

・・・・・・・眠れんEE:AEB64

なぜなのか、別に気になるような物音もしないし、大五郎もピクリともせずに眠っていた。

私の眠りを妨げるものは何ひとつないというのに、眠くならないのである。

緊張も恐怖感もない、うまい具合に寝不足、薬もちゃんと飲んだ、それなのになぜ睡魔は来ない??

いったい薬は効いているのか??間違えて飲んだのか??

私は上半身だけ起こして、薬の袋に手を入れ、中身を確かめた。

間違いない。いつもの頼れるやつだ。信じてるやつ。裏切るなんて思ってないやつ。

効いてるのか??私の精神は安定しているか??

うまく表現できないが、どうも安定しているとは言い難かった。

しかし、私を困らせる緊張や不安の類ではない。

何というか、元気なのである。とても。コーヒーを飲んだ後のような、軽い興奮というか。

何かそういうものを飲んだっけ??私は晩に飲み食いしたものを思い出してみる。

豚キムチとちゃんぽんのスープとチャーハン、水とカルピスソーダ。

薬効を乗り越えて、一体何が私をハイにしているのか?

ええい、考えても無駄だ、現実は眠れないのである、こうなったらもう原因なんか探っても手遅れである。対処、対処。

経験上、こういう時には無理に寝ない方がいいということは分かっていた。

今回は完全に開き直った。本を読むところからやり直しだEE:AE4E5

寝ている大五郎を起こさないようにそっと布団を抜け出し、タンスの上の雑誌を持ってくる。

なかなか読む時間がなかったのだ、ちょうどいい。

それも全部読んでしまった。

なにくそ、ここで敗北感があると、余計に眠くなくなるのだ。気~にしない、気にしない。

やはりちゃんと活字を読まないと儀式にならないのかもしれない。

大五郎のお腹の下に手を突っ込み、本を引っ張り出す。

そのせいでダイは起きてしまったが、布団をめくると大人しく中に入り、丸くなった。

準備OK。これぞいつもの夜。やり直しなんかじゃないぞ。

やっと眠くなったのは、その本を半分ほど読んだあたりだ。新聞屋のバイクの音を聞いた。

今度こそ、眠い。いつものヤツが来た。

電気を消す。

寝れるかな、と思う間もなく寝ていた。

という訳で、朝は最悪だ。

絶対に二度寝してやる、と誓い、それと引き換えに起きることにする。

何だったんだ、昨日の夜は。薬が効かないとか、ないよ全くEE:AE4E5

あれがあれば大丈夫だと信じていたのに、ひどい裏切りである。

洗濯だけして寝るつもりが、目が覚めてしまった。

何が私を寝かさないのか。

あぁもう、今夜は金曜日だ。

飲むぞ。