第二次世界大戦末期、沖縄。
いよいよ米軍が上陸してこようという時である。
比嘉真一は学友たちと、とうとう戦地に赴くことになった。
この時をずっと待っていた。
沖縄を、この土地に住む老人・婦女子を守るため、少しでも多くの米兵を殺して自分も死ぬのだ。
彼は高揚していた。
「お国のため」に命を捧げることだけを、考えていた。
比嘉真一、14歳。
しかし配属先の彼の任務は、後方支援であった。
食料の配達、負傷者の護送、塹壕堀り。
どれも楽ではなかったが、彼は「自分のやるべきことはこんなことなのか」と、手元の手榴弾を見ながらジレンマに陥っていた。
やがて戦況が悪化してくると、負傷者も目に見えて増え、護送も命がけになってくる。
野戦病院では女学生らも奉仕していたが、もう負傷者は収容しきれなくなっている状態で、看護もままならない。
放置され、腐り、死を待つだけの負傷者を見て、真一は「こうはなりたくない。死ぬなら一人でも多くの敵を倒してから手榴弾と一緒に突っ込むのだ」と言い聞かせる。
そして「転進」という名の退却が始まるが、攻撃の合間を縫って、負傷者を抱えての行軍である。凄惨を極めた。
死体を踏み、泥沼を進む。
壕の上部に削岩機で穴を開け、そこから爆弾を投下して火炎放射器で焼く「馬乗り」と呼ばれる敵の攻撃。
ついに真一の潜む壕の上から、削岩機の音が響きだす・・・。
著者・吉村氏は、綿密な取材を元にリアルに事実を描き出すのを得意としている作家だそうである。
これは実話だ。
多くの住民を巻き添えにして、沖縄本島の中部一帯は米軍に制圧された。
主人公の比嘉は、何か功績を残したわけでもない、普通の少年である。
起も承も転も結もない、単なる記録だが、あまりにも壮絶で現実離れしており、まるでドラマか映画のような話であった。
祖国のために、いとも簡単に命を捧げる兵隊たち。
最後の最後まで、敵を殺して自分も死ぬことを考えていていた14歳の真一の愛国心も、涙モノである。
多くの人が命を落とした、沖縄決戦の悲劇である。
ぽ子のオススメ度 ★★★★★
「殉国」 吉村昭
文春文庫