人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

1センチ相当の良心

12月半ばの事だ。

ポストを開けると、待ち焦がれていた茶封筒が入っていたのだ。

来た。

それがここに届いたという事は、少なくとも「入賞」を意味するはずである。

私は小躍りして家に飛び込んだ。

しかし封を開けて文章を読んでみると、青ざめた。

そんな。

まさか。

そこには「最優秀賞」の文字があったのだ。

カメラマンのキジ兄は、私がカメラを買ってからというもの、アドバイスをくれたり写真を修正してくれたりと、色々助けてくれていた。

今回のコンクールもキジ兄が「出してみなよ!」と勧めてくれたからで、この賞はキジ兄なしではあり得なかったものである。

それでも先日は「祝賀会」と称して飲む時間を作ってくれ、奥様のカイさんが、賞を取った写真をキーホルダーとストラップにしてプレゼントをしてくれたのだ。

賞も嬉しいが、私はこの友人をみんなに自慢したい。

さて、そして今日がその授賞式だったのだ。

ビシッとスーツでキメる程ではなかろうが、ジーパンにTheWhoのロンTって訳にもいかないだろう。

受賞を喜んでくれたダンナに「ちゃんとしたスーツが必要だ。また、今後も必要になるかもしれない。非常に必要だ。」と言うと、あっさりOKが出た。

しかし何だか年寄りを騙したみたいで申し訳なくなり、やっぱり服は娘ぶー子に借りる事にした。

ターゲットは決めてあった。

大きなペイズリー柄のブルーのロングスカートである。

実は常々いつかあれを着てやろうと思っていたのだが、ドレッシーなので着る機会がなかったのである。

授賞式だろうが相変わらずテレテレ支度をしたために、時間がなくなってしまった。

借りたスカートを急いで穿くと、よっとと、ちょっとこれ、ずいぶん長いスカートで・・・。

普通に歩いても裾は床にギリギリの長さで、ちょっと動き回るだけでふんづけてしまう。

しかし他の服を着るという選択肢は、時間的にも気持ち的にもなかった。

ならば足を伸ばせばいいじゃないか。

あれの登場じゃ、13センチのピンヒール。

後悔している暇はなかった。考えている時間がなかったのである。

ピンヒールで自転車になんか乗るものではない。

自転車というものは人力で動くものである、足に力を入れてペダルを踏み込まなくては前に進まないが、靴があんな形状なのだ、つま先付近で漕ぐより他ないのである。

ところがつま先付近の面積が小さいために、力を入れればスコーンと滑って足が外れてしまう。

その上、テラテラと長いスカートがはためいて、今にも自転車に巻き込んでしまいそうだ。

しかし、戻って着替えたり履き変えたりする時間はないのである。

自転車は進み、足は外れない力のバランス。

そんなものが少々上手くなった午後である。

授賞式はまぁ、形式的なものだ。

他の受賞者、審査員、企画にまつわる人などが集まり、言葉を述べ、賞状をもらい、写真を撮る。

他の受賞者は年配の男性が多く、「もう何十年も写真やってきた」的なツワモノの匂いがプンプンした。

そんな雰囲気の中「・・・で、最優秀賞のサンタイザベル・ぽ子さんは、毎年出してたりするんですか?」と聞かれ、バカ正直に「初めてです、写真の知識もなんもありません。」と答えたので更に空気が硬くなったように感じられた。

しかしプロの女性カメラマンは、優しく励ますように褒めてくれたのだ。

ありがとう、嬉しい、私もカメラマンになるなら女性カメラマンになります。

帰りも自転車だ。

さっきの力加減のコツをもう忘れており、何度もスコーンスコーンと足を滑らせた。

そのうちビリッという音が・・・。

このシチュエーションでビリッは、もうあれしかない、ヤバい、見たくない、しかし借りた服だぞ、確認しておけEE:AE5B1

だ。

ヒールのかかとがスカートの裾を突き破ったのだろう。

ピンヒールであったことが幸いして(幸いとか言っちゃったりしてEE:AEAC5)穴で済んだが、穴は穴である。ヤバい。

家に帰ってからスカートを脱いで、もう一度良く見てみた。

1センチ程の小さな穴である。

くるぶしより長いスカートの裾の1センチだ、しかも柄はペイズリー、これは黙っていても分からないぞ。

どうするか、ぽ子。

これまでもぶー子から借りた服や装飾品を、酔っ払って何度も壊し、失くしてきた。

今度はシラフで・・・、救いようがない。

「ぶー子ぉ・・・。実は謝らなくちゃならない事が・・・。」

結局正直に話した。

バレる確率は低いが、万が一バレた時の信用の失墜の方が怖かったのだ。

正直者というより、小心者なのである。

しかしぶー子は「あー、いいよいいよ別に。私も自転車に絡ませて破いたりした事あるし、気にしないで。」と言ってサッサと出掛けて行ったのだ。

何でそんなに優しいのですか??

いつか自分のお気に入りの服に穴でも見つけるんじゃないか、ちょっと不安である。

ところで、賞を取った作品をここにお見せしたいのは山々なのだが、どこか他のところでその作品を目にされてしまうと個人情報も一緒にお目にかけることになってしまうので、載せることができない。

実はもう前にUPしてあるのだが、興味がある方は色々見て想像してくださいなEE:AEACD