人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

勝利とはなにか。

11時半には寝る。

早く寝て充分な睡眠をとらないと、もはや私の午前中はないも同然だ。

布団に入ってから1時間のインターバルがあったとしても、11時半なら充分な時間である。

背中にスイッチがついている訳じゃないのだ、布団に入ると同時に眠れるようなことはない。

私はとことん眠くなるまで本を読んでいる。

1時間もかからない。

11時半に布団に入れば、たっぷり眠れるという事だ。

しかし、人に迷惑がかからない予定というものは、往々にして遅くずれ込んでいくものである。

11時半にはまだリビングをウロウロしていたが、悪いペースではなかった。

一度つけたらなかなか消えないパソコンの電源は、もう切れていたのである。

後は歯を磨いたり加湿器の用意をしたりという「寝支度」をするのみであった。

そんな時に娘ぶー子が帰ってきたのである。遅番だったのだ。

それを見越してそれより早く布団に入るつもりだったのだが、これによりぶー子にご飯を作って出すという作業が加わった。

とは言え、大したものではない。

そもそもいらないと言っていたので用意はしてなかったのだ、あるもの=インスタントである。

パスタを茹で、レトルトのスパゲッティを暖める。

風呂から出たぶー子にそれを出すと(この時間にカルボナーラをチョイスした。勇気のあるヤツだ)、歯を磨いて加湿器に水を入れ、薬を飲んで本とバッグと一緒に寝室に上がる。

もうずっとその気配で、エルは私を待ち構えてドアの前にきちんとお座りしてこっちを目で追っていたが、最後にドアを開けると一目散に寝室に駆け上がって行った。

先住の姉妹猫と折り合いが悪いので、彼女は早くシェルターに避難したいのである。

その後から私が出てドアを閉めようとすると、すぐそこに、一緒に出るつもりだったような大五郎がいた。

腰を浮かしてドアの隙間に首をのばし、じっとこっちを見ている。

く。

人気者は辛いね。

まぁ寒くなってからは2匹一緒でも大人しく寝ているから、今夜は連れて行くとしよう。

ダイと一緒に寝室に入ると、先に着いたエルが枕元で今か今かというようにウロウロしていた。

寒いので一緒に入りたいのである。

ダイはタンスの上に座った。

この子は布団に入ってから呼ばないと、入ってこないのである。

しかし昨日はたまたま、出しっぱなしだった洗濯物をタンスに入れたりするひと手間があったために調子が狂ったのか、2匹で遊びだしてしまった。

まぁまだいい。どうせ本を読むのだ。

しかし布団に入ると2匹とも、枕元にやってきた。

よほど寒いか眠いか、私にとっては至福の時である。なんたって今夜は2匹。

脳内に幸せ物質が噴出する。

不思議なもので、必ずエルは左側、ダイは右側に入る。

なので私の頭を挟んでエルは左に、ダイは右に座って布団の入り口を見つめていたが、どれっ、と布団を持ち上げると、左右同時に持ち上げたために布団は大きく開いた形になった。

2匹ともいつもより広い空間に頭を突っ込んだまま、お互いを見つめている。

やがてダイが私の体を横切ってエルのゾーンに侵攻した。

エルは退いた。

ちょっと!!幸せ物質が半分になってしまう。

慌ててダイを彼の国に押し戻して布団を下げたが、エルは国を捨てて逃亡した。

その上、ダイがそれを追って行ったので、幸せ物質はゼロになってしまった。

なんのために2匹・・・。これじゃゼロじゃねーか・・・。

私はエアコンのスイッチを切った。寒くなれば入ってくるだろう。

これはエルとダイの戦いではない。

実は猫対人間の戦いなのである。

部屋が冷えるまで、本を読んで待つ。

危惧していたことだが、本が面白くて止められない。

「何となく眠い」というところまでは来ているのだが、これでは止め時がないのである。

しかし心配はしていない。

ここまで来ていればあとは薬が寝かせてくれるのである。

自分は寝る時間を決めるだけで良い。

ちょっと読み過ぎた。寝るとしよう。

しかし猫達は、布団の上で寝てしまった。

ここまで熟睡してしまえば、寒さなど感じないだろう。

フン、人間の力を知れ。この一撃で戦いは終わるであろう。

私はガバッとまず遠いほうのダイをつかんで布団の右側に入れ、続いて素早くエルを左に入れた。

寝ぼけている上に暖かいのだ、これに抗えるはずはなかろう。勝った。

しかし右にダイ、左にエルだ。

ダイは私の脇の下で丸くなっていて、エルは左肩の上に頭を載せている。

これ、世間一般に言う「動けない」って状況か?

別にいつも寝ている格好と同じなのだが、動けないと思った途端に拘束されている感じに苛まされる。

二猫を追うもの二猫を得たが、ちょっと昔話みたいな展開に冷や汗だ。

チラリ。左側を見る。

エルは片手の先と顎を、私のすぐ横の肩の上に載せてスースーと寝息を立てている。

ブシューEE:AE4F4

間欠泉のように幸せ物質が噴き上がる。

チラリ。

ブシュー。

チラリ。

ブシュー。

幸せ物質が噴き上がるたびに、睡魔が遠のいていく。

米軍が沖縄に上陸した時、日本兵は最後まで抵抗したという。

私は猫との戦いには勝ったが、彼らの「猫魂【ねこ・だましい】猫族固有の精神。猫としての意識。主に人間に対して用いられる言葉)」を見た。

勝利とは何か。

久しぶりに薬の力を以てしても眠れない夜であった。

早起きバトルは負けた。