人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子56歳。

痛みか睡魔か

仕事だ。

私の預金残高はついに2万を切ったが、自分のペースに合う仕事もなく、途方に暮れていた。

と言うか、私のペースに合う仕事などあるのかどうか疑問ではある。

週に1度か2週に1度程度、どうかしたら月1でもいいのだ。

食費だけ稼げれば、今まで通りの生活でいけるのである。

「時々」、という仕事が欲しい。

そんな都合の良い仕事が、向こうの方からやってきたのであった。

モデルである。

そう、母の所属する油絵クラブのモデルだ。

とうとう年金生活者から受け取るお金を、アテにしなくてはならなくなってしまったのであった。

午後1時~5時で6千円というなかなか良い仕事だが、楽ではない事は過去の経験でもう分かっていた。

だから私は、午前中を寝倒したのである。

あれは、睡魔との戦いなのだ。

専業主婦が昼まで寝てる、と後ろ指さされてもいい。

あの睡魔と戦うのは私なのであり、なんならお前やってみろと言い返してやる。

あの仕事のキツさは、トップクラスである。

「できるだけ楽な恰好になるようにね。」

長時間同じ姿勢をとる事になるので、気を使ってそう言ってもらう。

今回は床に座って足を投げ出して後ろのイスにもたれるポーズだったが、楽な恰好などしたらそれだけ眠くなるに決まっている。

なので私は、右足を軽く折って内側に曲げてみた。

これなら軽い刺激であり、対睡魔戦にちょうど良いぐらいだろう。

カーン、戦いのゴングが鳴る。

1R15分である。

眠くはない。

どこも痛くも辛くもない。

今回は比較的楽にいけるかもしれない。

・・・という考えは、やはり甘かった。

10分もすると、曲げた右足が痛くなってきた。

しまった、睡魔対策に気を取られていたが、伏兵の登場である。

たかが15分、と頑張ったが、この伏兵が実はクセモノであったのだ。

15分経つと5分の休憩が入るが、その間にできるだけ体を動かし、先程のポーズを忘れさせるようにする。

次に座ればもう楽になっているが、同じ痛みは徐々に早く、そして大きく現れるようになってきた。

これは・・・、ヤバい。

脚というものは骨盤に繋がっているという事を、体をもって知らされたのだ。

足の痛みは腰の痛みとなり、まだ知らぬギックリ腰への恐怖が迫り来る。

かと言って今さらポーズを変える訳にもいかない。

そこで私は、少しずつ右足を伸ばすことにした。

少しずつやれば、気付かないだろう。

これは成功した。

完全に伸ばすわけにはいかなかったが、結構伸びたので、ずいぶん楽になったのだ。

しかし、今度は途端に眠くなった。

そうだった、思い出した、この仕事、できればもうやりたくないとまで思ったはずであった。

痛いか眠いか。

どちらがいいのか私は考えたが、眠くなったら足を動かして「痛い」を選び、痛くなったらまた足を動かして「眠い」を選ぶようにして過ごしたのであった。

最後の15分が終わると、曲げた足が動かなくなっていた。

ガッチガチに固まった感じで、無理に動かすと腰がやられそうな痛みが走る。

仕方なくそのままのポーズで体を回転させて、うつぶせになってから起きた。

生命保険に加入する時には仕事上のケガのリスクが考慮されるが、思うにモデルはハイリスク群である。

年寄りから金を貰うのは気が引けるが、これはそれだけの理由あっての賃金である。

炎天下のクリーニング工場での肉体労働より、はるかに辛い。

それなのに気が引ける不条理。

辛い仕事である。