眠い。
もうただひたすらそれだけだ。
他に何もない。
限界だ。
とうとう最後の扉を開ける時がきた。
飲めば眠れる事は分かっていたが、ここで飲んでは酒の奴隷である。
私は自分の力で寝れるようにならなくてはならないのだ。
燃えるような飲酒への欲求は、ノンアルコールビールで騙してしのいでいる。
以前、キリンの「フリー」でも騙された事があったが、あれこそ本当の詐欺だ、きちんと騙せたのは初めて飲んだ1回目だけであった。
ところが今飲んでいるドイツ産の「アインベッカー」、これがなかなか良い詐欺師で、どうかすると飲んでるうちにいつもの酔っている状態がフラッシュバックする程である。
味わってはいけない、喉で飲む、というコツはいるが、お陰で合法ドラッグみたいに堂々と飲めるのだ。
味わわずに飲む飲み物という屈辱的なレッテルと同時に、人間を騙せる飲み物という賛辞も併せ持ったビールである。
そんな効果で、昨日は非常に速やかに眠気がやって来た。
もちろんアインベッカーの力だけではなく、私のマインドコントロールの方も評価して欲しいが、軽く飲んで眠くなったところをイメージしつつベッドに入ったら、本を読むまでもなく眠くなったのだった。
そのまま目を閉じる。
寝れる。これは寝れる。
時間は11時半、久しぶりにたっぷりと熟睡できそうな予感・・・。
しかしバタン!という音で現実に戻された。
ああビックリした、なに??
1階のドアが閉まった音である。
大した音ではない。みんな一応気は使っているのだ。
寝入りばなに無意識に緊張しているのだろう、非常に音に敏感になる時間帯があるのだ。
しかし悔しい。本も読まずに寝れそうだったのだ。
気が収まらないので、ダンナと娘ぶー子に同じメールを送る。
「どちらか分かりませんが、ドアの開閉、静かに願います・・・、もう少しだったのにEE:AE473」
赤字の部分は余計だが、悔し紛れに言わずにはいられなかったのだ。
その甲斐あって、今朝のダンナは怒ってるのかと思うぐらいに大人しかった。
こんな事ではいけない。
ドアの開閉ひとつに気を使わせ、眠れないと仏頂面でウンザリするほどグチを言い、もう私だけの問題ではなくなってきているのだ。
できるだけ自力で何とかしようと頑張ってきたが、負けを認めて前進しなくては。
「眠れなくて困っています。薬をいただきたくて。」
そう言うと医者は、じゃあ出しましょう、それだけでコトは済んだ。
2、3薬について説明はあったが、薬局並みのシンプルさである。薬局に行ったらもっと丁寧に説明してくれたが。
とにかく、1時間半待たされて3分で薬を手に入れて帰って来たのだ。
ゲームでいえばスライムベス、コケラくず、クック程度の難易度である。
この薬がどれほど効くかは分からないが、正直あまり期待はしていない。
酒豪の定めで薬が効きにくい体なのである。
しかし効いたが最後、こんどは精神的に依存するようになる不安がある。
最後の扉だ。
いつでも戻れるように開け放しておく事を忘れないようにしたい。