ストラウスはかせわぼくが考えたことや思い出したことやこれからぼくのまわりでおこたことわぜんぶかいておきなさいといった。
そんな書き出しで始まった、主人公チャーリイの「経過報告」に、まず度肝を抜かれる。
精神薄弱者のチャーリイはある日、ビークマン大学の精薄成人センターの研究のため、手術を受けることになった。
それは彼の知能指数を短期間で驚異的に上げるというものだが、その変化を書き残す事が彼に義務付けられたのである。
手術はすでにアルジャーノンと名付けられたねずみで実験済みで、安全はほぼ保障されているはずであった。
チャーリイの変化は目覚しく、彼の「経過報告」の方も、文章が整っていく。
しかしIQが上がるにつれ、それまで信じて疑わなかった事の裏側が見えてくるのである。
「白痴のチャーリイ」が友達だと思っていた人。
みんな自分のことを好きだから、構ってくれていると思っていた。
そして、次々に思い出される過去。
とうとう彼の頭脳は彼に手術を施した教授たちをも追い越し、もはや誰もまともな話し相手にはならないところまできた。
そんな頃、ねずみのアルジャーノンに変化が起こる。
退行し始めたアルジャーノンの行動は、そのままチャーリイの運命になるのだ。
「天才チャーリイ」は、また「白痴のチャーリイ」に戻らなくてはならないのか・・・。
切ない、としか言いようがない。
手術を受ける前のチャーリイは、誰にバカにされようと幸せだったのである。
その間違いに気づいた事は、果たして知能指数が上がらないよりも幸せだったのだろうか。
挙句、憧れの「おりこうさん」になって手に入れたものは、どんどん失われていくのである。
これは死の宣告と変わりはない。
増してや頭脳明晰のチャーリイが先読みした未来は、正確なものだっただろう。
彼は自分の運命を正確に予知したのである。
解説の言葉を借りるが、
「アルジャーノンに花束を」の主眼点はただひとつ、結末の二行、<ついしん>の部分に収束する感動にあるわけで、ぼくなどつい泣いてしまうのである。
そう、この2行がとても切なくて泣けた。
精神障害者(もしかしたらこういう言葉もよろしくないのだろうか。無知で申し訳ない)に対する目線が変わる1冊だ。
彼らが永久に幸せでありますよう。
ぽ子のオススメ度 ★★★★★
「アルジャーノンに花束を」ダニエル・キイス
早川書房 ¥1500