ビールをいつもより1本多く冷やし、覚悟を決めてダンナの帰りを待った。
しかし「今、出ましたEE:AE5B1」というメールをもらったのは11時過ぎ、確実に帰宅は12時を回る。
まぁダンナ次第だ。別に私は飲みたくはない。おお、こんなセリフも言えるようになったのね。喉が痛いからだが。
しかしその時私は、ゲームでボス戦に入ろうというところであった。
子供だましのゲームだが、まだ私のキャラは弱いのだ。
おもちゃみたいなロボットが、一度倒れたように見せかけてこっちに襲ってくるところである。
続けて娘ぶー子も帰ると電話をよこしたので、あとで本気で戦っちゃる首洗って待っとけやEE:AE4E5とポーズをかけておいた。
セーブができないタイミングなのだ、ごめんね東電。
ぶー子のご飯を作っておくと、駅までダンナのお迎えだ。
朝は雨だったのだ。専業主婦はドライバーにもなる。
ぶー子だったら30分もあれば吐かせることができる、有能なドライバーである。犯人連れてこいや。
12時に新秋津駅前。
一度行った場所にしか行かれない、有能なドライバーである。
ところが、駅前に続く一方通行の道が、途中で工事をしていて通れなくなっていたのだ。
一通なので、曲がるしかない。
唐突に右か左かの決断を迫られて、とっさに馴染みのある右の方に曲がってしまったが、さぁどうするミセス有能。
ここは志木街道、このまま行けばファッションセンターしまむらや紳士服のアオキ、いなげや、そうだ、いなげやのところを左に曲がれば秋津の駅に行くはずだ。
でもそこから新秋津に行くには、酔っ払いの溢れるとてもせま~い道を行かねばならない。
有能ドライバー、車でそこ行ったことないしEE:AEB64
などと考えている間にも、車はどんどん進んでいく。
いなげやだ。これ以上行くと、泥沼である。
覚悟を決めて左に曲がった。
こんなに覚悟を決めて左に曲がるなど、恐らく初めてに近いだろう。
それほど無難なドライバー人生を歩んできたのである。そのツケだ。
意外と道幅があったので、すぐに左に寄せて停めた。
そこから電話で、ダンナと無益なやりとりが始まる。
「ここまで来れる?」
「どうやって行ったらいい?」
「あそこをこっちに曲がると、こっちに来れるんだけど・・・。」
「あそこってどこ?」
「あそこは、えーと、あそこあそこ、う~・・・。」
「ここに来る前に曲がれそうなところがあったけど、そこかなぁ?」
「そうそう多分そう。」
「(嘘つけ、分からないから適当に言ったな。とりあえず私を動かそうってハラか。)でも違ったらどうしよう。」
「うんとねー、うんとー・・・。」
絶対にその道で間違いがなく、私でも走れる道だという保障が欲しい私、そんな事は分からないんだからとりあえず動いて欲しいダンナ。
時間ばかりが無駄に過ぎ、結局私が動いた。ヤケクソである。
こんなにヤケクソで知らない道を行くのも、恐らく初めてだ。
安パイでやり過ごしていると40過ぎてから苦労をするので、若人よ、勇気を出してそこを曲がるが良い。
結果的に、道は合っていた。
合っていたが、とても細い道である。
しかもすぐ後ろからついてくる車がいて、涙が出そうだ。
そんな時に前をトボトボ歩いているダンナを発見。
私に気付き、あいているスペースに警備員のように大きく手を振って誘導する。
ヨカッタヨカッタ、「覚悟→安心」、勇気を出した私へのプレゼントであった。
やっと寝る準備ができたのは、1時半である。
しかしそこでぶー子が言った。「なんでこれ、つけっぱなし?」
ハッ、テレビになってて忘れていた、ゲーム、途中じゃん!
翌日の二度寝が確定した瞬間である。