「ごめん、寄って欲しいところがある。」
別れを言いに。
多分、最後になるだろう。
ここまで入れ込む事になるとは思っていなかった。
前にもちょっと書いたが、ペットショップで恋に落ちてしまったのだ、ミニチュアピンシャーと。
小鹿のような細く長い手足、つぶらな瞳、垂れた耳。
毛足はもの凄く短く、見た目はツルツルだ。
そこが災いしているのだろう、一部には人気があるようだが、ダックスやチワワのようにポピュラーな種類ではない。
私も敬遠していたのだが、この仔にはまるで運命のように惹かれてしまったのである。
運命なのだ、理由だとかきっかけだとか、そういったものは何もない。
ただ可愛い、側にいたい、それだけであった。
早く誰かに売れて欲しい、そうすれば諦めがつくのに、そう思っていたが、値段が下がるだけで、売れる気配はなかった。
それがまた辛いのだ。
訳も分からず小さな部屋に閉じ込められ、愛らしいしぐさで走り回っていながらも誰にも求められずに値段が下がるだけの仔。
とうとう6万にまで下がった。
純血種である。もとは10万を超えていたのに。
やばい、この仔は売れないのだ。
最後はどうなるんだ?
ペットショップで売れなかった動物がどうなるのか、私は知らない。
今日び調べれば分かりそうだが、怖くて知りたくないのだ。
ここへきて私はそれが急に気になってきた。
気になるけど、知りたくない。
知りたくないけど知らなくてはならない時が来ているのか。
今日HPをチェックすると、なんと4万にまで落ちていた。
4万EE:AEACB
きっともう最後の値段だ。
この週末が最後の勝負であり、週が明けたらもう会えないかもしれない。
4万だ、誰かが飼ってくれるかもしれない。
逆に4万でも買い手がなければもう後がないかもしれない。
「あのねぇEE:AE4E5今でも猫が4匹で、ラもミもエルもダイもみんなストレス感じてるでしょ!!犬なんか来たらミは死ぬよ!!なんで金出して買う!?どんだけもっと可哀相な犬がいるよ!!ねぇ、その犬買って、その後に死にそうなボロボロの子犬見つけたらどうすんの!!」
娘ぶー子の言う事はごもっともである。
ごもっともだが、自分の運命を案ずる事もなく無邪気に小部屋で愛想を振りまいている子犬は不人気で、もう持ってけ泥棒状態なのである。
というか、「あんた、ミニチュアピンシャーだから言ってんでしょ!!違う犬だったらどうなのよ!!」というと、呆気なく「そうだけどぉ」と言ったので説得力ナシだ。
長くなったがそんな訳で、あの仔と会うのは最後になる予感がしていたのだ。
私は嫌がるダンナを強引にまた、コジマに連れて行ったのだ。
実は、ちょっと覚悟していた。
もし店員が「もう買い手がいないんです」というような泣きを入れてきたら、4万なら何とかなる、私は強行突破するつもりでいた。
ミニピンについては色々調べてあった。
活動的で利口だが、しつけをちゃんとしないと難しい上級者向けの犬であること。
逆に、猫と一緒に飼っている人も多かったという気休め情報。
「何とかなる」という安易な考えはいけないが、それ以上にあの仔の行く末が心配である。
何とかする。
何とかするしかないだろう。
コジマの駐車場に着いた。
緊張する。
いて欲しい。
いや、いて欲しくない。
複雑な気持ちだ。
「神様は、一番いい形を作ってくれると思ってる。」
なんでこんな大袈裟な話になってるんだ、と思いながらも、結果に納得するために言葉にした。
店に入ると、いつもいた部屋にあの仔がいない。
「いない!!」とダンナを振り向くと、「あそこにいるよ・・・。」とダンナ。
見るとあの仔は、家族連れのお父さんに抱かれていた。
小学生ぐらいの子供達がかわいい、かわいい、と言っていて、みんなであの仔を囲んでいたのだ。
「飼おう、って言ってるよ。」
そこまでしか聞けなかった。
泣けて恥ずかしくて、すぐに店を後にした。
あの仔を家族にできなかった悲しさと子供のいる明るい家庭に買い取られた嬉しさと、複雑な気持ちだったが、「神様は、一番いい形を作ってくれると思ってる。」その通りになったと思う。
心配していたあの仔が、私の目の前であの家族に迎えられる場面を見られたのは、単なる偶然だとは思いたくない。
残念だけど、一番いい形だったのだ。
子供達に喜ばれて迎えられたミニピン、平和を壊されずに済んだ我が家の猫たち。
しかし私達の運動不足が解消されるチャンスも、遠ざかった気がするが。
同じタイプのミニピン。