「定時で上がれたらペットショップに行くから、そのついでにラーメンにしますか。」
という素晴らしい提案のメールが来ていたので、仕事が終わると家にすっ飛んで帰ったのだ。
月曜日と言う地獄のような一日を照らす、一条の光であった。
しかし家に着きリビングに入ると、私は絶叫する事になる。
エルの首についていたドーナツカラーはなくなっており、術後服はちぎれ、尻からぶら下がって引きずられていた。
カラーも服も、術後の傷口を舐めさせないための物である。
それがないという事は・・・、私はエルのお腹を見たが、オーマイガッド、腹の傷を縫い合わせていた糸がない!!
大変だッ、大変だッ、大変だッ、気合だッ、気合だッ、間違えた、大変だッ!!
私は絵に描いたようなオロオロしたオバハンと化し、とりあえず部屋中をひとしきり歩いた。
しまった、こんなことしている場合ではない、病院に電話を、その前に傷口をカバーしなくては。
外れたはずのドーナツカラーを探したが、これが見つからない。
私が出かけて私が帰って来ただけの部屋である。絶対にあるはずだ。
部屋を何周もしたが、だんだん焦りが出てくる。
「ない!」「ない!!」「ねえ!!」「ねえよ!!」
人間一人でも叫ぶものである。
叫んだってない物はなく、かえって「ない感」がにじみ出て余計に焦る。
それは、ダンナがイスにしていた猫ハウスの入り口に引っかかっていた。
申し訳ないが、今は「なぜダンナが猫ハウスをイスにしていたのか」を説明する余裕がない。
勝手な想像を許すので、各々盛り上がっていただきたい。
入り口に引っかかって取れたのだろうか。
私はそれを取り出して、再びエルの首に通した。
ついでに脱げかかっている服を脱がしたが、足を通す部分は食いちぎられ、服はズルズル引きずられていた。
そのままトイレに行ったのか、しっとり黄色くて臭いEE:AEB64
悲惨だ。
出かける寸前までエルは大人しく、カラーを外そうなどとしなかったのに。うちの子に限って。
ちょうど娘ぶー子が帰ってきたので、病院まで付き合ってもらう。
車の中では、ぶー子と晩飯バトルである。
「ラーメンEE:AE4E5」「よしかつEE:AE4E5」と言い合っているうちに、火花はあらぬ方に飛び火し、最後にはマジファイトになっていた。
その間にダンナは「オレも直接病院に行く」というメールをくれたらしいがそれどころではなく、ダンナが来る頃には私達の間は冷め切って凍りついていた。
足を組んでうつむき、携帯をいじくっているぶー子。
手だけエルのキャリーに入れ、ぶー子に顔を背けるように、仏頂面でそっぽを向いている私。
ダンナはすぐに異変を察知したが、「そんな事気付いてません」というフリである。慣れたものだ。
家に帰ってからも「よしかつ行けばいいじゃん」「ラーメン行けばいいじゃん」という低レベルの争いが続き、やっとの事で「みんなでラーメン」でまとまったのだが、行ってみると、目当ての限定ラーメンが私達の前の客で終わってしまった。
仲良くしないから、こんな事になるのである。
さっきまでケンカしていたにっくきぶー子が、素直に「可哀相に」というリアクションをしたので、余計に情けなくなった。
近いうちによしかつに行かねばなるまい。