人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

消えたドーナツ

「定時で上がれたらペットショップに行くから、そのついでにラーメンにしますか。」

という素晴らしい提案のメールが来ていたので、仕事が終わると家にすっ飛んで帰ったのだ。

月曜日と言う地獄のような一日を照らす、一条の光であった。

しかし家に着きリビングに入ると、私は絶叫する事になる。

エルの首についていたドーナツカラーはなくなっており、術後服はちぎれ、尻からぶら下がって引きずられていた。

カラーも服も、術後の傷口を舐めさせないための物である。

それがないという事は・・・、私はエルのお腹を見たが、オーマイガッド、腹の傷を縫い合わせていた糸がない!!

大変だッ、大変だッ、大変だッ、気合だッ、気合だッ、間違えた、大変だッ!!

私は絵に描いたようなオロオロしたオバハンと化し、とりあえず部屋中をひとしきり歩いた。

しまった、こんなことしている場合ではない、病院に電話を、その前に傷口をカバーしなくては。

外れたはずのドーナツカラーを探したが、これが見つからない。

私が出かけて私が帰って来ただけの部屋である。絶対にあるはずだ。

部屋を何周もしたが、だんだん焦りが出てくる。

「ない!」「ない!!」「ねえ!!」「ねえよ!!」

人間一人でも叫ぶものである。

叫んだってない物はなく、かえって「ない感」がにじみ出て余計に焦る。

それは、ダンナがイスにしていた猫ハウスの入り口に引っかかっていた。

申し訳ないが、今は「なぜダンナが猫ハウスをイスにしていたのか」を説明する余裕がない。

勝手な想像を許すので、各々盛り上がっていただきたい。

入り口に引っかかって取れたのだろうか。

私はそれを取り出して、再びエルの首に通した。

ついでに脱げかかっている服を脱がしたが、足を通す部分は食いちぎられ、服はズルズル引きずられていた。

そのままトイレに行ったのか、しっとり黄色くて臭いEE:AEB64

悲惨だ。

出かける寸前までエルは大人しく、カラーを外そうなどとしなかったのに。うちの子に限って。

ちょうど娘ぶー子が帰ってきたので、病院まで付き合ってもらう。

車の中では、ぶー子と晩飯バトルである。

「ラーメンEE:AE4E5」「よしかつEE:AE4E5」と言い合っているうちに、火花はあらぬ方に飛び火し、最後にはマジファイトになっていた。

その間にダンナは「オレも直接病院に行く」というメールをくれたらしいがそれどころではなく、ダンナが来る頃には私達の間は冷め切って凍りついていた。

足を組んでうつむき、携帯をいじくっているぶー子。

手だけエルのキャリーに入れ、ぶー子に顔を背けるように、仏頂面でそっぽを向いている私。

ダンナはすぐに異変を察知したが、「そんな事気付いてません」というフリである。慣れたものだ。

家に帰ってからも「よしかつ行けばいいじゃん」「ラーメン行けばいいじゃん」という低レベルの争いが続き、やっとの事で「みんなでラーメン」でまとまったのだが、行ってみると、目当ての限定ラーメンが私達の前の客で終わってしまった。

仲良くしないから、こんな事になるのである。

さっきまでケンカしていたにっくきぶー子が、素直に「可哀相に」というリアクションをしたので、余計に情けなくなった。

近いうちによしかつに行かねばなるまい。