人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

無責任コンプリート

スキニーのジーンズを買った。

あまり体の線が出るものは着たくないのだが、ロングブーツを買ったので細身のジーンズが欲しかったのだ。

ブーツの黒に合わせて、グレー。

私は、次に外で飲む時に着て行こうと決めた。

「おかーさん、スキニーのGパン貸してEE:AE471」とぶー子が寝室にやってきたのは、休日のまだ朝早い時間であった。

当然私は酒と夜更かしのせいでまだ寝ていたが、学校の友達と出かけるのに穿いていきたいと言うのだ。

「服を貸してくれ」という事は、「その服着たい」という事であり、「その服着たい」という事は、「その服いいですね」という事であり、「その服いいですね」という事は「あなたってばハイセンスなお方ですね」という事である。悪い気はしない。

なので、私は服や靴を貸すことにあまり抵抗はない。

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そう言えばあのスキニーのジーンズ、この頃見てないなぁとふと気がついた。

アンニャロめ、また返すのをサボッている。

誰もいないぶー子の部屋を開けると、相変わらず散らかった部屋であった。

主に食い散らかしたゴミと、脱ぎ散らかした服である。

その脱ぎ散らかした服群の中に、私はグレーのスキニーを発見した。

ズボッと脱いでそのまま、立体的に立っていた。

立体的とは言ってもジーンズである。

クシャクシャと蛇腹のように波打って、縮こまっていた。

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新しいジーンズをそのように放置されては困る、そして、人から借りたものは早く返せ、と言っておいたのだが、ある日見るとまだそれはハンガーにかかっていなかった。

ダダダンといつもより強めにぶー子の部屋をノックした。

ジーンス、どこにしまったの?と私は穏やかに聞いた。

時々自分のオッチョコチョイで、「ちゃんと返してあった」というような事があるからである。

しかしぶー子は凄い速さで「あ、これこれここに」とたたんだジーンズを見せ、「でも明日も貸して欲しいんだけど・・・。」と続けた。

人の新しいジーンズをアコーディオンのようにフン潰された怒りはあったが、またしても「あなたってばハイセンスなお方ですね」と褒め称えられた気がして呆気なく貸してしまった。

2回目である。

あなたってば超ハイセンスなお方ですね、と。

悪い気はしない。

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金曜日。

駅前でダンナと待ち合わせて飲む事になった。

おお、新しいジーンズのデビューである。

私は仕事から帰るとあらかじめ決めておいたカットソーを着て、ジーンズを穿こうとクローゼットを開けた。

ところが、ないのである。

「今度こそちゃんと定位置に返しておくように。」と言って貸したのだが。

私は黒のカットソーにパンツ1枚で、家中をウロウロと探し回った。

ない。

ところが、どこにもないのである。

「スキニーのジーンズはどこEE:AE4E5」とメールを送り、仕方なくパンツ1枚で返事を待った。

得てしてこういう時の返事が遅いぶー子である。

私は同じ文面を、これでもかと言うほど立て続けに送り続けた。

反応がないので、今度は電話だ。

やはり出ないが、しつこく2度目をかけたら、すぐに繋がった。

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「ごめん~~。」開口一番こう言った。嫌な予感。

洗濯機の中だという。

貸したものが返ってくるのなら、貸した時にあった場所に戻っているのが普通である。

それが、いざ穿こうと思ったらないのだ。

洗うなら洗うで、そう言うべきである。

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仕方ない、今夜は違う服を・・・、と選びながら、ふと思った。

あのジーンズは、ぶー子が穿いた2回しか着ていないのだ。

それをなぜもう洗濯に?

私は洗濯機に走り、その中からグレーのスキニーを取り出した。

それにはシミがベッタリとついていた。

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私はすぐにぶー子に電話をかけ直し、「何で洗濯した?」と意地悪く聞いた。

そこでやっと汚した事を白状したが、

EE:AE4D7まだ私が一度も穿いてないジーンズを、こんな風に汚し、

EE:AE4D7何の処置もしないまま、

EE:AE4D7そ知らぬ顔をして洗濯機に入れ、

EE:AE4D7黙ってスルーしようとし、

EE:AE4D7その上あれだけ言ったにも関わらず「返す」という事をしない、

EE:AE4D7人のものを借りるという事がどういうことなのかわかっているのか?

EE:AE4D7それとも相手が私だと思ってナメてるのか?

EE:AE4D7どういうつもりだ、責任とれEE:AE4E5EE:AE4E5EE:AE4E5

・・・というような事を、ヒステリックに何度も繰り返した。

何度繰り返しても腹の虫が収まらなかったが、もうこうなってしまった以上、致し方ないのである。

今夜は諦める、ジーンズはすぐにそれなりの処置をしてから洗え、もう何も貸さん、以上。

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さすがにビビッたらしいぶー子。

翌朝二日酔いで起きてみると、ちゃんと洗濯して干してあった。

あーあ、洗濯前のピシッとしたラインで、一度は穿きたかったものだ。

あれは今週末の飲み会でデビューになることだろう。

ところで私は今日、久しぶりに洗濯をした。

例によって休日は家事をしなかったからであるが、天気が悪いので部屋干しである。

洗った洗濯物を持って和室に入ると、そこにはまだぶー子が洗って干した洗濯物がかかっていた。

「定位置に戻せ」は、もう忘れているのである。

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しかしこれをたたまないと、今日の洗濯物が干せないのだ。

そして、たたんだものはしまわないと、この部屋で寝ているダンナが寝れないのである。

仕方なくたたんだが、私は自分のジーンズを手に取ったときに呆気にとられてしまった。

全然汚れが落ちていないのである。

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EE:AE4D7洗ったら、汚れがちゃんと落ちているか確かめて、

EE:AE4D7落ちていなかったら弁償する、と言ったんじゃなかったか?

EE:AE4D7それをせずに放置、

EE:AE4D7あれほど怒られても放置、

EE:AE4D7私は金曜日に穿くつもりで、

EE:AE4D7たまたま今気がついたけど、当日まで気がつかなかったらどうするつもりだったのか?

EE:AE4D7つかなめてんのかテメーEE:AE4E5EE:AE4E5EE:AE4E5

・・・というような事を何度もヒステリックに繰り返したかったが、あいにくぶー子は電車の中である。

メールだと迫力に欠けるが、緊急事態である。

ジーンズ的にも私の怒り的にも。

完璧な無責任だ。

ここまで完璧な無責任も、なかなか揃う事はないだろう。

完全無欠の無責任だ。

今夜ぶー子は、新しいスキニーのジーンズを買って帰るはずである。

それが責任というものなのだ。

仕事から帰ってくると、留守電のランプが点滅していた。

ボタンを押すと、メッセージが流れ出す。

「いつもありがとうございます、TSUTAYAの○○と申します。ぶー子さまがお借りになったDVDの返却期限が・・・。」

こちらの責任も取ることになるだろう。