「この帽子、ちゃんとかぶって帰って来れたら、スペイン旅行ねEE:AEAAB」
と、大胆な約束を一方的にしてあったが、果たしてその帽子は、いつからかなくなっていた。
時々行く音楽バーの忘年会だったのだ。
6時半から、というスタートの早さ、10時半までという長丁場から、当然帰りが心配された。
履いていたのは高さ10cmはあろうかというハイヒール。
歩き出してから気付いたが、酒飲んでこの靴、大丈夫だろうか・・・。
音楽バーの忘年会では、ゲストとしてフィンガー5のアキラが来るとの事。アキラ(笑)
子供の頃の超アイドルが来たんだから写真なんか撮ったりしてそれなりに盛り上がったが、面白かったのはアキラを招待したスーさんである。
年の頃、50前後だろうか。
外国人のような整った顔立ちのいわゆる「イケメン」だが、まるで飾りっ気がないので親しみやすい人だ。
とてもジェントルで、客ながら客への心配りが暖かい。
ステージに誘ったり、常連さんを紹介してくれたり。
そんなスーさん、アキラが来て超ゴキゲンであった。
ハイペースで飲んだのか、序盤からもうブッとんでいた。
「ねーねー、アキラくん、俺、俺、酔っ払ってる!?」とステージ上のアキラに大声で聞いたりして、一同爆笑であった。
人が酔うのを見るのは楽しい。
飲み放題だったが、もう連日飲み続けていたのでかなりゲンナリしていた。
飲みやすいアセロラサワーを飲んでいたが、全然酔いが回らないので、魔が差してウィスキーを飲み始めてしまった。
水割りのつもりで「ダブルで」と頼んだら、なんとロックできた。
ゆっくりそれを飲み、今度は「水割り、ダブル」と注文した。
しかし出てきたのはロックである。
「じゃあシングルで」と頼んだら、シングルのロックで現れた。
「ダブルで、水で割ってもらえますか?」と言ってやっと水割りにありつく事ができたのだった。
しかしその頃にはもう、したたか酔っていた。
周りの常連さんもいい感じの酔ってきていてそれも面白かったのだが、さらなる刺激を求めて私たちは店を出て、今度は「沖縄バー」に向かった。
上司グッティ氏がそこで忘年会をやっていると言ってたし、何だか派手に踊りたかったのだ。
しかしもうすでにオーバードランク、いくらも飲まないうちにギブアップだ。
家に帰る事にしたのだが。
ここからが大変だったのだ。
記憶も途切れ途切れで何が何だか良く分からないのだが、どうやらタクシーを待っている間にダンナとケンカして、私は一人で歩いて帰ろうとしたのだ。
商店街をトボトボと歩いていたら外国人に声を掛けられ、帰る方角が同じだったので彼のママチャリに乗っけてもらって帰ったのだった。
しかし、鍵がかかって家に入れない。
なぜかバッグも上着もない、丸裸状態である。
インターホンを何度も押したが、誰も出てくる気配がない。
娘ぶー子も今夜は飲み会だ。
ダンナはまだ久米川で私を探しているのだろうか?
待つことにした。
しかしその時の私は薄手のカットソー1枚で、死ぬほど寒い。
ガクガクブルブル震えて待ったが、誰も現れなかった。
寝てしまおう、寒くて死にそうだ、あぁもう面倒だ、死んだ方が寒くなくていい。
しかしあまりの寒さに眠れない。
家の鍵、金、携帯、上着、どれかひとつでもあってくれれば何とかしのげただろうが、困り果ててしまった。
寒さをしのげる場所・・・、うーんうーん、あEE:AE476
私が向かったのは、無人の駐在さんである。
そこのイスに座りしばらく寝ていたが、朝方になって駐在さんが起きてきた気配がしたので逃げるようにそこを出た。
家はまだ変化はない。
誰も出ず、ドアは開かず。
クソッ、私は自転車にまたがって再び久米川に向かった。
マンガ喫茶だ。
あそこなら暖かいし、パソコンがあればメールができる。
連絡がついたらお金を持ってきてもらえばいいのである。
「会員証がないと入れません。身分証明がないと会員証も作れないので、警察に行った方がいいんじゃないですか?」
カウンターの若造はニコリともせずそう言った。
くそー、てめーがそこをクビになったら、日本中のネットカフェにお前が泊まれないように通達してやるッ。
極寒の久米川で凍死せよ!
しかしよく考えてみると、お前、いい案を出してくれたな。
もうこうなったら警察ぐらいしか頼るところがないじゃないか。
交番はすぐ近くだった。
「私の荷物を持ったダンナとはぐれてしまって、家に入れないんです。」
お巡りさんはまず私の家に電話をした。出ない。
お巡りさんはしばらくうーんうーんと頭を捻っていたが、やがて、「ここにいさせることは出来ないから、警察署の方でダンナさんが電話に出るまで待ってなさい」と言ってどこかからパトカーを呼びつけ、テレホンカードを貸してくれた。
そして私はパトカーで警察署に行き、ロビーのイスで寝ながらダンナが電話に出る時を待った。
7時半頃か。
電話に出たのは朝帰りのぶー子であった。
かくしてやっと家に入ることができたのだったが、落ち着いて体を見てみるとあちこち怪我だらけであった。
膝はストッキングが破れて血が出ていたし、大きな痣が右足にふたつ、右腕の痣は腫れ上がっていた。
そして風呂に入って頭を洗った時に分かったが、どうやら頭も打っている。
右方向に転んだのだろうか。まるで記憶がない。
ところでダンナは、爆睡していた。
もしかして私を探してまだ久米川の町をさまよっているんじゃないかと思ったが、あとで聞いたらサッサとひとりでタクシーで帰り、鍵をかけて寝たそうだ。
アンタもクビになったら、ネカフェで寝れないようにしてやるッ!!
帽子はダンナが持っていた。