娘ぶー子はこの春大学に入学し、ダンスサークルに入ったのだ。
そこそこ大きなサークルのようで、ジャンルによって分かれているとのことである。
ぶー子はサークル史上初の、ブレイクの女子部員となった。
他にはヒップホップ、ロックと確かジャズあたりじゃなかったかと記憶しているが、実はロックの中で、小さく「ハウス」のジャンルも枝分かれしていた。
なぜそんな事になっているかと言うと、ハウスはたったの一人しかいないからである。
そのたったの一人・ゴンゾーさんは、2年生の男子部員だ。
なぜか知らないが嫌われていて、孤立しているらしい。
ぶー子は合宿で彼からハウスの指導を受けた事があるらしいが、「別にそんな変な人じゃないんだけどなぁ」と言っていた。
ストリートダンスというとクールな印象があるが、どちらかと言うと彼はラグビー部員のようにでかくてゴツい、そして素朴で垢抜けない雰囲気の人物であるらしい。
そんな彼が孤立している姿は寂しげで、ぶー子も気になっていたようである。
ある日彼からサークルのメンバー全員に、自主練の誘いのメールが配信された。
絵文字をふんだんに使い、極めて明るく「ハウスのCDも配ります!ぜひ参加してください!」と書かれていたようだ。
ぶー子はすぐに嫌な予感がした。
誰も来ないだろう。
そしてその予感は的中するのである。
その日たまたまぶー子の所属するブレイクの方も、自主練が入っていた。
しかしすぐに終わったため、友達とふたりでゴンゾーさんの所に行く事にしたらしい。
ゴンゾーさんの指定した教室には、案の定誰もいなかった。
肝心なゴンゾーさん自身もいなかったので、ぶー子と友達は机を寄せたりして練習スペースを作って待った。
やがて現れたゴンゾーさんはぶー子達が練習に参加すると知ると、「まじ!?ホントに??超嬉しい、ありがとう、ありがとう!!」と本当に喜んだそうだ。
そして「じゃあもっと声掛けてくるね!!」と再び教室を出たが、やはりひとりぼっちで戻ってきた。
ぶー子達にしたら想定の範囲内であるが、可哀相な展開である。
しかもその後におっかねーOBが現れて、楽しくやろうEE:AE468的な雰囲気は一気に「オラ、びしっとやれや」的な練習になってしまったらしい。
散々だったが、後でゴンゾーさんは、ぶー子と友達にこう言った。
「実はオレ、もし今日誰も来なかったらサークル辞めるつもりでいたんだ。来てくれてありがとう。」
ゴンゾーさんが嫌われている理由は分からないが、みんなが「ケッ」と鼻にもかけなかった自主練が、彼の最後の賭けになっていたのだ。
今、ぶー子の手元には、ゴンゾーさんの編集したハウスのCDがある。
みんなダンスが好きなのだ。
その部分でみんなと繋がっていけたらいいのに・・・と、心から願う。