人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

ゴンゾーさん

娘ぶー子はこの春大学に入学し、ダンスサークルに入ったのだ。

そこそこ大きなサークルのようで、ジャンルによって分かれているとのことである。

ぶー子はサークル史上初の、ブレイクの女子部員となった。

他にはヒップホップ、ロックと確かジャズあたりじゃなかったかと記憶しているが、実はロックの中で、小さく「ハウス」のジャンルも枝分かれしていた。

なぜそんな事になっているかと言うと、ハウスはたったの一人しかいないからである。

そのたったの一人・ゴンゾーさんは、2年生の男子部員だ。

なぜか知らないが嫌われていて、孤立しているらしい。

ぶー子は合宿で彼からハウスの指導を受けた事があるらしいが、「別にそんな変な人じゃないんだけどなぁ」と言っていた。

ストリートダンスというとクールな印象があるが、どちらかと言うと彼はラグビー部員のようにでかくてゴツい、そして素朴で垢抜けない雰囲気の人物であるらしい。

そんな彼が孤立している姿は寂しげで、ぶー子も気になっていたようである。

ある日彼からサークルのメンバー全員に、自主練の誘いのメールが配信された。

絵文字をふんだんに使い、極めて明るく「ハウスのCDも配ります!ぜひ参加してください!」と書かれていたようだ。

ぶー子はすぐに嫌な予感がした。

誰も来ないだろう。

そしてその予感は的中するのである。

その日たまたまぶー子の所属するブレイクの方も、自主練が入っていた。

しかしすぐに終わったため、友達とふたりでゴンゾーさんの所に行く事にしたらしい。

ゴンゾーさんの指定した教室には、案の定誰もいなかった。

肝心なゴンゾーさん自身もいなかったので、ぶー子と友達は机を寄せたりして練習スペースを作って待った。

やがて現れたゴンゾーさんはぶー子達が練習に参加すると知ると、「まじ!?ホントに??超嬉しい、ありがとう、ありがとう!!」と本当に喜んだそうだ。

そして「じゃあもっと声掛けてくるね!!」と再び教室を出たが、やはりひとりぼっちで戻ってきた。

ぶー子達にしたら想定の範囲内であるが、可哀相な展開である。

しかもその後におっかねーOBが現れて、楽しくやろうEE:AE468的な雰囲気は一気に「オラ、びしっとやれや」的な練習になってしまったらしい。

散々だったが、後でゴンゾーさんは、ぶー子と友達にこう言った。

「実はオレ、もし今日誰も来なかったらサークル辞めるつもりでいたんだ。来てくれてありがとう。」

ゴンゾーさんが嫌われている理由は分からないが、みんなが「ケッ」と鼻にもかけなかった自主練が、彼の最後の賭けになっていたのだ。

今、ぶー子の手元には、ゴンゾーさんの編集したハウスのCDがある。

みんなダンスが好きなのだ。

その部分でみんなと繋がっていけたらいいのに・・・と、心から願う。