目をカッと見開き、一歩退いて彼は言った。
「臭い。」
凄ぇ酒臭い、と彼は繰り返した。
そうだろう、凄ぇ飲みましたから、昨日は。
6時半からと聞いていたが、家を出たのは7時15分であった。
急いでバス停に向かったが、失敗した、ブーツのヒールが高すぎるのだ。
ブーツと言ってもサンダルのようなブーツなので素足に履いていたが、とにかくヒールが高いので、爪先立ちで履いているような感じである。
それで走るのだ。なんと、ふくらはぎが痛み出した。
これではトレーニングである。
あり得ない部分の筋肉のトレーニングだ。
バス停までトレーニングだったが、時刻表を見ると次のバスは15分後の7時35分だった。
そんなに待てない、と右を見たらちょうどタクシーが来た。
ちょうどいい、と手を上げて乗り込む。
バッグの中はダンナの財布である。
あらかじめ予約してとってあった部屋は、奥まったところにある和室であった。
ここでブーツを脱がなくてはならないのだが、爪先立ちで履いていたので足が爪先にめり込むようにガッチリはまり、また素足で履いていたのでしっかり密着して取れない。
最初のうちこそ普通に脱ごうと努力したが、最終的には股をおっ広げてブーツを両手で引っこ抜いた×2。
ここで2時間。
まだまだ飲み足りないという感じで次に向かったが、飲み屋は行列である。
カラオケに行ったが、こういうシチュエーションは選曲に困る。
「一緒に歌おう」と言われた曲を歌っただけである。
そして飲み放題、ここでアホほど色んな酒を飲んだので、私の記憶は途切れるのである。
このあともう一軒行ったが、私の頭の中にあるのは音のない静止画像が数枚ばかりであり、そういう意味では私は誰とも喋っていない飲み会であった。
誰とも交流していない、したのだろうが覚えてないので1日前と何も変わっていないのだ。
しかし、家についてからのことはよく覚えている。
駐車場に車が無かったからである。
家に入るともぬけの殻、時間はもう朝方に近かったと思うのだが。
私はしばらくボー然としてソファに座っていたが、いつの間に寝てしまったのだろう。
気がついたらちゃんとパジャマ姿でベッドに寝ていた。
二日酔いの始まりである。
飲み過ぎのおとし前だ。
記憶は無くしたのに、そういうものはしっかり回ってくるのである。