過去を水に流せば、幸運が微笑みます。
「魔法の杖」という、占いの本による結果である。
厚さ5cmはあろうこの分厚い本は、YES・NOで答えられる問いかけに答えられるという。
深呼吸をして、胸に本を当て、心の中で問い、おもむろにガッと適当なページを開く。
ダメだろうという事は分かってはいたが、あれだけ緊張していたという事は、どこかに期待を捨てられない部分があったのだろう。
私は胸騒ぎがしていた。
私たちの時代は大学入試とは狭き門であり、努力しないものは浪人か就職かという頃であった。
ところが今は子供の数が減り、「全入時代」と言われている。
大学側は、生徒が欲しいのだ。
名門校、ブランド校はどうだかわからないが、多くの大学が入りやすくなった。
「AO入試」もその表れだろう。
簡単に言えば、自己推薦みたいなものである。
エントリーシートに自己PRを書き込み、面接を受ける。
学校によって方法は様々だが、簡単なテストをするところもある。
娘ぶー子の受けた大学は、そんな学校のひとつであった。
面接、講義力テスト、英語による質疑応答。
ハードルは高かった。
オープンキャンパスで手に入れた過去問は英検2級レベル、ぶー子は中2レベルである。
起死回生のチャンスはエントリーシートに書くPRだが、だいたい大学を選んだ動機から不純だったのだ。
キャンパスがきれい、成績優秀者の行く留学優待制度。
かくしてぶー子は塾に入って、週4回の個人授業を受けることになったのだが、すでに面接まで1ヶ月を切っていた。
浪人してもいい、あの大学の全ての試験を受ける。
ぶー子は死に物狂いで頑張った。
しばらくの間だけ。
「・・・AOダメだったら、もう一般入試はいい・・・。」
ついにぶー子はへたばった。
正直呆れたが、最終試験までイヤイヤ勉強させることを考えたらこっちもウンザリしたし、未来への大きな分岐点である。
けじめだ約束だとかにこだわって不本意な将来を歩ませたくなかった。
じゃあAOまで頑張ろう、その後はまた別の道を考えよう。
そして、AOの試験は散々だったらしい。
懸念していた英語の質疑応答だが、突然英語で質問されたらしい。
私たちがオープンキャンパスで聞いた話だと、英文を渡されてから黙読、その後音読、それからその内容について英語での質問があるとの事であった。
ところが英文を渡される前に、面接が急に英語になったというのだ。
ぶー子はここでテンパッて、頭が真っ白になったらしい。
相手の言うことがわかってもそれに対して答えられない。
モジモジしていると向こうは通じなかったと思ったのか、何度も言い方を変えたりゆっくり言ったりしてくる。
しかし、ぶー子が出来ないのは「返事」なのだ。
結局「理解できてない」と判断されたのだろう。
英文をもらった後も、黙読の時間はもらえなかったらしい。
すでに相当テンパッていたので、結果は散々だったと言う。
それ以前に、英文も良くわからなかったとの事だが。
試験が終わったら、ぶー子は以前のようにのびのび過ごし始めた。
不合格はわかっていたが、もう大学も受験勉強も御免だ、という事だ。
合格発表前日の昨日の朝も、調理師がいいか、動物関係もいいね、とむしろイキイキしていた程である。
ところが・・・。
62503。
あったのだ、ぶー子の受験番号が。
しかし、今回この学科のAO受験者は、全員合格である(笑)
つまり、大学側のハードルが思ったより低かったのだろう。
まぁ何でもいい、受かったのだ。
調理師になったぶー子の飯も食べてみたかったが、これは神様の思し召しである。
たとえ落ちたとしても、神様がぶー子にとって一番いい道を与えてくれているんだと考えていた。
たとえ受かったとしても、それは同じである。
全ての受験生に、心からエールを送る。
必ずあなたにとって一番いい結果が出るはずだ。
ところで占いの「過去を水に流せば」だが、一体何を水に流すべきだったのだろう?
私は色々考えたのだが、あの時点でもう結果は出ているのだ。
何も流すことはできなかった。
しかし、恩返しとして私は何かを水に流すべきなんじゃないかと思った。
何をどう流すかは、実際に流したときにここにUPしようと思う。