人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

B面

昨日は珍しく酒の回りが悪かったので、諦めてベッドに入る事にした。

しかし休日前だ。

夜更かししないと気が済まない。

私は音楽を聴くことにした。

でかいヘッドフォンをかぶり、電気を消して布団に潜り込む。

昔はこうしてよく音楽を聴いてから寝たものだが、これは目が冴えてしまい眠れなくなるので、できるだけ我慢していたのだ。

久しぶりである。凄く。

どうせ久しぶりなら、もの凄く懐かしいものを聴こう。

私は中学の頃にこよなく愛していた、ジャーニーをチョイスした。

古いのでカセットテープである。

このように昔好きだったものの音源はほとんどカセットなので、私達はコンポ、ラジカセの類を買うときに、カセットを聴けるものを選んできた。

寝室にあるものは、大きなラジカセである。

しかし、こいつには大きな欠点もあった。

オートリバースじゃないのだ。

CD、MD、カセット全て備わっているものを探した結果、値段との兼ね合いもあり、選ぶ余地がなかったのだ。

まぁひっくり返せばいいのだ、人力で。

そもそもはそうだったじゃないか。

便利さに慣れてしまって、いけない。

アルバム「フロンティアーズ」は90分テープに録ったから片面に全曲収まっており、ひっくり返す手間はなかった。

案の定目が冴えてきたので、引き続き「エスケイプ」のアルバムを突っ込む。

これは46分テープに録ってあったから、A面が終わったらひっくり返さなくてはならない。

まぁ大した手間ではないのだ。

私は全く気にせず曲を聴いていたが、A面最後の曲、「Still They Ride」の時に、足元で寝ていたエルが枕元にやって来た。

やぁエルさん、こんばんは。嫌な予感である。

いつもならすぐに横でくるりと丸くなるのだが、ちょこんと座って何か迷っているようだ。

もしかして、もしかして。

私の胸はときめいた。

季節が変わりつつあり、夜はだいぶ冷え込むようになってきた。

猫は寒がりである。

寒がりのエルが、枕元で、つまり布団の入り口でじっと迷っているのだ。

私は布団を軽く持ち上げた。ちょうど空いている私の右脇が良く見えるように。

エルはしばらく迷っていたが、そのうちズンズンと中に入って来た。

曲も終わりそうだ。

エルは布団の中でクルンと丸くなって、ペロペロと毛づくろいを始めた。

曲が終わる。

終わった。

・・・どうしよう?

続きを聴くためには、早送りをしてA面の終わりに持っていき、ひっくり返さなくてはならない。

ひっくり返すためには、ベッドから出なくてはならない。

ベッドから出ると、エルはどうなる?

私はエルを見てみた。

息苦しくないように、ちゃんと顔だけ出るように布団をかけてある。

私は布団から出ている小さな頭を撫でてみた。

途端にエルは目をつぶり、左手と一緒に私の肩に首を乗せてフーッとため息をついたまま動かなくなった。

まずい・・・。

私の一番好きな曲は、B面の2曲目である。

アレを聴きたくて、もったいつけてここまで聴いてきたようなものなのに。

しかし、シーズン初添い寝である。

ここでエルに嫌な思い出を植えつけてしまうと、今後の添い寝ライフに響いてしまうかもしれない。

悩んだ末、私はエルを選んだ。

テープは再生されたままだったが、A面の終わりまで行けば勝手に終わるだろう。

ヘッドフォンを外し、私はラジカセをそのまま放置した。

A面の残りはどれ位あったのだろうか。

突然、ガチャン!!と大きな音を立てて、カセットは終わりを告げた。

と同時にエルはビクッと肩を揺らせて飛び起きた。

ゴッド、ファック、マザーファッカー!!

エルは布団から出て、枕元からラジカセの方をじっと見ている。

・・・終わった(泣)

エルは、私が布団に入れるのでは寝てくれない。

自分の意思で入って来ないとダメなのだ。

よほど驚いたのか、エルは枕元で座ってラジカセを見たまま、動かなくなってしまった。

しょうがない、それならB面を聴くかとも考えたが、いや、もしかしたらまた布団に戻るかもしれないと思いなおし、ジャーニーのエスケイプ、B面を諦めた。

結局エルはその場所で丸くなった。

私はそこに腕を回してみたのだが、エルはその腕をベロベロと舐め回し始めた。

グルーミングである。

私は勝手にこれはエルの愛情表現だと解釈しているのだが、だから私はひたすら彼女に舐めさせていた。

舐めて、舐めて、舐める。

やっと終わったかと思ったら、やはりそこに首を乗せて寝てしまった。

まぁ場所は変わってしまったが、これでも腕枕みたいなものだ。

私もいい加減、寝ることにしよう。

しかしだ。

私は右にいるエルに、左手で腕枕をしていたのだ。

そのうち肩やら腕やらが痺れてきた。

しかし、姿勢を変えるとエルが起きてしまう。

ここでエルが起きてしまったら、これからの添い寝ライフに支障が・・・。

考えた挙句私は、腕を動かすのではなく、体を腕に合わせて楽な姿勢になるように大移動させた。

ベッドに対して体が斜めになった。

すると今度はその刺激でか、背中にじんましんが発生した。

私はこすったり掻いたりする刺激で、時々じんましんが出るのだ。

そしてそれはあちこちに飛び火した。

左手を右に固定したまま、右手で全身を掻きむしる。

休日前で良かった。

私はそのまま新聞屋のバイクの音を聞いた。

季節が変わっていく。

エルは寒がりである。

そして私はエルを心から愛している。

寝不足がますますひどくなりそうな予感である。