人間のクズ!

敵は自分の中にいる。ちょっとだけ抗ってみたくなった、ぽ子55歳。

りんご

「おかーさん、暇?」

昨日の夜の事だが、唐突に娘ぶー子が聞いてきた。

非常に微妙で答えにくい問いである。

そのとき私はゲームをしていたが、そういった意味では暇ではなかった。

しかし、「ちょっと勉強教えて欲しいんだけど。」という話なら別だ。暇に決定する。教えられる勉強などないが。

つまりその先のぶー子のセリフ次第で、どうにでも答えは変わるのだ。ちょっと悪どいな。

「用件によるけど。」と言うと、「りんごを・・・。」と言い難そうに切り出した。

グゲエッ。

私は米とぎと果物の皮をむくのが大嫌いである。

なので面倒な果物は極力買わないようにしているが、先日ダンナの実家から1箱ドーンと送られてきたのだ。

自分でやれよ、と言いかけた時に、「ジュースにして飲みたいんだけど・・・。」とぶー子は続けた。

ジュースに??

もっと面倒ではないか、と思ったが、待てよ。

そこで、どうも私も猛烈に喉が渇いていた事に気がついた。

晩ご飯は味噌ラーメンぽ子スペシャルだったのだが、このスープの味がかなり濃かったのだ。

それで私もぶー子も、のどが渇いているのだ。恐らくダンナも。

めんどくさかったが、渇きが勝った。まぁ時間なら結構あるし、ゲームも進めたし。

しかしりんごジュース?

作る気にはなったが、「りんごはね、ミキサーにかけてもドロドロのすりおろしになるし、色が変色して難しいんだよ。」と言った。

「そっか・・・。」と諦めて部屋に帰っていったが、どれ、ひと肌脱いでやるか。

まずはネットで調べた。

あまりたくさん載ってはいなかったが、一番シンプルな物にした。

「りんごを切ってミキサーにかけるかすりおろす。」

切るためにはくそめんどっちー皮むきをしなくてはならないが、私には生ジュースのビジョンが見えているのだ。苦ではない。

苦だった。

4個もむいたらウンザリしてしまった。

コレを小さく切って、ミキサーに半分ほど放り込んだ。

ガイガイガイ・・・・

子供の頃私は、ミキサーで作るジュースを、その音から「ガイガイジュース」と呼んでいた。超カワイイだろう。

しかし水分が少ないからか、空回りしてなかなか変化がない。

どうしよう、牛乳でも足すかと思ったが、りんごミルク?聞いたことないじゃん。

私は何度もミキサーを止め、振り回し、またスイッチを入れた。

そのうち少しずつシャカシャカと混ざりだした。

・・・すりおろしである。私の言った通りになったのだ。ホントかよ。

りんごはドロンドロンと下のほうにたまっていく。

カサが減ってきたら残りを足してまたスイッチを入れていったが、ミキサーに一杯、りんごのすりおろしが出来上がった。

ドス茶色でまずそうだ。だから言ったじゃないか、・・・私が。

なぜわかっていることをやってしまったのだ??

ネットの情報を見ているうちに、忘れてしまったのだ。

どうせ私の記憶も疑わしいのだ。だからこの程度で消去されてしまうのだ。

私はもう一度ネットのサイトを開いたが、そこには続いてこう書かれていた。

「こして下さい。」

こす・・・?

面倒だ、ここに氷をいれてシェイクかスムージーだと思えばいいじゃないか。

ミキサーからグラスに移す。

半固形なので、ドボッ、ドボッと落ちるように入っていく。あちこちに飛び散った。

氷を入れたが、馴染まない。

まぁいいよ、味はりんごなんだから。

ダンナとぶー子に持っていった。人が作った物だから文句は言わなかったが、どう思った事か。

ぶー子はストローをくれと言ったが、何だか詰まりそうなので私はそのまま飲んだ・・・飲もうと思ったのだが、ボテボテのりんごが重く、なかなか下りて来ない。

そこでグラスに口をつけたままグッと上を向いたのだが、突然ドサッとかたまって、鼻をも包み込むように落ちてきた。

ファック!!こんなん飲めるか!!

私はふきんを出して、残りのすりりんごを入れ、ボールに向かって搾り出した。

ちょうどそこでぶー子が現れたが、「ぞうきんで・・・おえ~・・・。」と言って彼女は飲むことを拒否した。

ぞうきんではない、これは洗い立てだし、食品関係にしか使わない純粋なふきんだっ!!

しかし私の手によってふきんから搾り出されるこれは、ジュースなどではなく、理科の実験とかあぶり出しに使われる液体のようである。

ゲンナリしたが、誰も飲まないなら私が飲む。

むいたり切ったり大変だったのだ。捨ててたまるか。

甘く、生ぬるいそれは、苦労に反比例してまずい飲み物であった。

果物も手作りも、ますます嫌いになったぽ子である。