「おかーさん、暇?」
昨日の夜の事だが、唐突に娘ぶー子が聞いてきた。
非常に微妙で答えにくい問いである。
そのとき私はゲームをしていたが、そういった意味では暇ではなかった。
しかし、「ちょっと勉強教えて欲しいんだけど。」という話なら別だ。暇に決定する。教えられる勉強などないが。
つまりその先のぶー子のセリフ次第で、どうにでも答えは変わるのだ。ちょっと悪どいな。
「用件によるけど。」と言うと、「りんごを・・・。」と言い難そうに切り出した。
グゲエッ。
私は米とぎと果物の皮をむくのが大嫌いである。
なので面倒な果物は極力買わないようにしているが、先日ダンナの実家から1箱ドーンと送られてきたのだ。
自分でやれよ、と言いかけた時に、「ジュースにして飲みたいんだけど・・・。」とぶー子は続けた。
ジュースに??
もっと面倒ではないか、と思ったが、待てよ。
そこで、どうも私も猛烈に喉が渇いていた事に気がついた。
晩ご飯は味噌ラーメンぽ子スペシャルだったのだが、このスープの味がかなり濃かったのだ。
それで私もぶー子も、のどが渇いているのだ。恐らくダンナも。
めんどくさかったが、渇きが勝った。まぁ時間なら結構あるし、ゲームも進めたし。
しかしりんごジュース?
作る気にはなったが、「りんごはね、ミキサーにかけてもドロドロのすりおろしになるし、色が変色して難しいんだよ。」と言った。
「そっか・・・。」と諦めて部屋に帰っていったが、どれ、ひと肌脱いでやるか。
まずはネットで調べた。
あまりたくさん載ってはいなかったが、一番シンプルな物にした。
「りんごを切ってミキサーにかけるかすりおろす。」
切るためにはくそめんどっちー皮むきをしなくてはならないが、私には生ジュースのビジョンが見えているのだ。苦ではない。
苦だった。
4個もむいたらウンザリしてしまった。
コレを小さく切って、ミキサーに半分ほど放り込んだ。
ガイガイガイ・・・・
子供の頃私は、ミキサーで作るジュースを、その音から「ガイガイジュース」と呼んでいた。超カワイイだろう。
しかし水分が少ないからか、空回りしてなかなか変化がない。
どうしよう、牛乳でも足すかと思ったが、りんごミルク?聞いたことないじゃん。
私は何度もミキサーを止め、振り回し、またスイッチを入れた。
そのうち少しずつシャカシャカと混ざりだした。
・・・すりおろしである。私の言った通りになったのだ。ホントかよ。
りんごはドロンドロンと下のほうにたまっていく。
カサが減ってきたら残りを足してまたスイッチを入れていったが、ミキサーに一杯、りんごのすりおろしが出来上がった。
ドス茶色でまずそうだ。だから言ったじゃないか、・・・私が。
なぜわかっていることをやってしまったのだ??
ネットの情報を見ているうちに、忘れてしまったのだ。
どうせ私の記憶も疑わしいのだ。だからこの程度で消去されてしまうのだ。
私はもう一度ネットのサイトを開いたが、そこには続いてこう書かれていた。
「こして下さい。」
こす・・・?
面倒だ、ここに氷をいれてシェイクかスムージーだと思えばいいじゃないか。
ミキサーからグラスに移す。
半固形なので、ドボッ、ドボッと落ちるように入っていく。あちこちに飛び散った。
氷を入れたが、馴染まない。
まぁいいよ、味はりんごなんだから。
ダンナとぶー子に持っていった。人が作った物だから文句は言わなかったが、どう思った事か。
ぶー子はストローをくれと言ったが、何だか詰まりそうなので私はそのまま飲んだ・・・飲もうと思ったのだが、ボテボテのりんごが重く、なかなか下りて来ない。
そこでグラスに口をつけたままグッと上を向いたのだが、突然ドサッとかたまって、鼻をも包み込むように落ちてきた。
ファック!!こんなん飲めるか!!
私はふきんを出して、残りのすりりんごを入れ、ボールに向かって搾り出した。
ちょうどそこでぶー子が現れたが、「ぞうきんで・・・おえ~・・・。」と言って彼女は飲むことを拒否した。
ぞうきんではない、これは洗い立てだし、食品関係にしか使わない純粋なふきんだっ!!
しかし私の手によってふきんから搾り出されるこれは、ジュースなどではなく、理科の実験とかあぶり出しに使われる液体のようである。
ゲンナリしたが、誰も飲まないなら私が飲む。
むいたり切ったり大変だったのだ。捨ててたまるか。
甘く、生ぬるいそれは、苦労に反比例してまずい飲み物であった。
果物も手作りも、ますます嫌いになったぽ子である。